　－４．ＡＳＡＴＯ　＜Ｐａｒｔ３＞　－　

Ｂｏｒｄｅｒ(国境)･･････
私は車を走らせる。助手席にいるはずのない“彼”を乗せて…。

「いいのか、アリア？」
「うん、かまわない……」
　私はともかく国境近くまで、私達は車を走らせた。
今はまだ、明るいが、あともう少しで夕暮れの時間である。そして、この国の入り口の門(ゲート)には、結構退屈そうな、警備管理人(ガードマン)がいる。

「あ、アリアさん。お出かけですか？」
　人懐っこそうな男が車の窓を覗(のぞ)いてきた。
「そろそろ来るかなあと思っていたんですよ」
「シュウと一緒に研究旅行だよ」
　私は、いつものようにゲンナリした顔をした。
「相変らず、仲がいいんだか悪いんだかわかりませんね･･････」
　そして、いつものようにＬＯＯＫ(ルック)は屈託(くったく)なく笑った。
「ルック･･････。警備管理人がそんなに無邪気でいいの？」
　ふと、私はいってみる。と、ルックはいう。
「いや、結構、ここって暇なんですよ。何せ、警備といったってやることはないに等しいし･･････、その間に研究しているぐらいですからね」
　そういえば、ルックも研究者である。
　言葉遣いが丁寧で無邪気な顔をしているものだから、忘れそうになるけれど、武器開発やら改良やらをしている研究者なのだ。
　でも、それだけだと、気が滅入るから、気分転換のために警備管理人をやっているらしい。
　とはいえ、門は国の入り口である。
警備管理人といっても、いろいろあるが、わざわざ、ここの門を担当するのだから、ルックのことだ、この国の出入り口に設置する軍事設備でも作る予定なのだろう。
まあ、いろいろ彼もやっているんだろうと思う。
　警備服タイプの白衣(研究着)は何かと痛んできていて、苦労がなんとなく偲(しの)ばれる。
「武器研究のために、僕も研究旅行に行きたいですね･･････」
　そういう彼はとてつもなく無邪気である。
「一緒に行く？」
　私はふふっと笑っていってやる。勿論、そんなことをされたら非常に困るのだが、しないとわかっているので私はそんなことをいう。
「Ｄｒ．ＳＹＵ(ドクター　シュウ)がシッカリいるので遠慮します･･････」
　ルックは彼を見ると、案の定、苦笑して辞退する。
「その方がいいぞ。ルックじゃ、半日で屍(しかばね)だ」
「Ｄｒ．ＳＹＵ、あなた自身が破壊指数の高い武器になりそうです」
　ルックは非常に脱力した顔をする。なんというか正直者である。
「君ねえ･･････」
「いいなあ、ルックは･･････」
　私はふふっと笑ってしまった。

「しかし、アリアさん、サングラスすると随分イメージかわりますね」
　と、ルックは私を見ていう。
　どうも、いつもしていないものをしているせいか、気になったらしい。
　サングラスをした理由はなんてことはない。
　私の変色してしまった“ＢＬＵＥ　ＳＫＹ(目)”を隠すためである。
　この“ＢＬＵＥ　ＳＫＹ”のことをすべてではないにしろ、知っている人間は意外といるのである。そんな連中にこの目のことを知られるわけにはいかないのだ。
　また、会った人間が、そのことを知らなくても、この“目”が変化してしまったことに感付いて、いろいろいってくるのも嫌だったし、万が一、そのことが知れ渡ったとしたら、危険があると私は判断したのだ。
　要するに、念のための用心である。
「似合う？」
「いつもより、大人っぽいです」
「というか、君よりは元々長生きしているとは思うけど･･････？」
　微妙に子ども扱いされたような気がしてそんなことをいってみる。
「大した差じゃないですよ」
「まあ、そうだけどね」
　実際そうである。たかだか半年ほどの差でしかない。
　そして、研究者の中では、極めて珍しい真っ直ぐで素直な奴だったりする。
　更に、誰とでもすぐに打ち解けて仲良くなってしまう特技を持っているのだ。
　結構、面白い奴である。
　もっとも、シュウに対しては違うみたいだけど･･････。
「じゃあ、ルック･･････。これが許可書と旅行書(パスポート)ね」
　私は自分とシュウのふたり分のそれを彼に渡した。
「･･････。今回は結構長く行く予定なんですね･･････」
　ちょっと驚いたようにルックはいう。
　そして、それは同時に、言外に『よく許可が下りたものだ』といっていた。
「うん」
「まあ、Ｄｒ．ＳＹＵが携(たずさ)わる研究だから仕方ありませんね」
　が、アッサリと納得する。で、私はいつものようにアッサリと答えた。
「その通り。それに、これ以上に国を空ける可能性だって高いよ･･････」
　そうである。“シュウ”を生き返らせなくてはいけないのだ。
　そんな１ヶ月で帰ってこれるわけはない。まず、不可能である。
「上の方がいい顔しませんね･･････」
　ルックは苦笑した。　
「研究のためといえば、渋々(しぶしぶ)許すって感じだからね。まあ、私とシュウが好き勝手するのはいい気分がしないでしょう」
　嫌になるほどわかっていることを皮肉を少々だけいれていう。
「そりゃあ、この国は世界最大の研究都市ですからね。主要な研究者がこの国を長い間留守にされると困りますよ･･････」
　で、ルックは警備管理人らしくいった。が、
「･･････。僕がやりたい研究を自由にさせてくれないくせに、何が“世界最大の研究都市”なんだか･･････」
「Ｄｒ．ＳＹＵ･･････」
　私はふたりの様子をみて溜息を吐いた･･････。

「はい、ちゃんと確認完了しました」
　ふと思い出したように、さっきわたした許可書やら旅行書をチェックして、ルックは私に渡した。
　思わず私はルックを見る。
「おいおい、そんなアッサリやっていいのかい？」
　今回の出国のチェックは随分とアッサリである。
　本来なら、すぐ近くにある国境管理局の建物の中に入っていろいろやらなければならないのだ。
　ちなみに、ちょうど私は、流石に車にずっと乗っているわけにもいかないから、外に出ようとした時だった。
「別に問題ないですよ。アリアさんとＤｒ．ＳＹＵの研究旅行については、“管理局”から、聞いていますし･･･････」
　が、ルックはあっさりと平然という。
　どうやら、リンクが気を利かせてくれたらしい。
「それに、通常のチェックなんてやったら、“天敵(マリア)”がすぐに来てしまうんじゃないでしょうか？」
　といって、ルックは笑った。　
「お見通しだな･･････」
「はい、下手に騒ぎを起こされても困りますからね」
「悪いな･･･。ど～にもアレだけは私は苦手だ」
　苦手というよりは、このマリアについては嫌悪感すらある。
「それがわかっているから、みんなアリアさんには協力するんです」
　ルックは平然と私にいう。
「そうなの？」
「あの人は天才かもしれないですけど、我らにとっては“天災”なんですよ･･････」
　意味ありげにルックはいう。
　素直な奴である。
　まあ、確かにあの女には“天才”よりは“天災”の方があってはいるが…。
「それに、みんなアリアさんのこと、ほっとけないんですよ」
　とルックは少しだけ哀しそうな顔をした。
「ルック？」
　私は車の窓からヒョィっと彼の顔を覗き込む。
「アリアさんは、かってのかの科学者に似ていて全然似ていないんです･･････」
「よく、みんなにいわれる」
　そして、毎度の言葉に私は苦笑するしかなかった。
　私の姿はシュウの恋人でもあった科学者にそっくりなのだ。人間とは似ているものには例え別物だとわかってはいても、多少なりとも拘りをもってしまうのだ。
　だから、ルックのこの態度も仕方ないといえば仕方がないのだ…。
「僕は確かにアリアさんよりも年下ではあるんですけど、それは“人間”としての場合ですから･･････。まだ、“精神体”だけの時には、つまりアリアさんが誕生する前に、彼女には会っているんです。そのときの彼女を覚えている僕としては、みんながアリアさんに協力したりしたくなるのはわかりますね･･････」
「そういや、ルックも“作られた人間”だったな」
　ふっと、忘れかけた事を思い出す。彼も私と同じ“作られた人間”なのだ。
「はい、かつて、彼女にも御世話になったんですよ」
「そうか」
　で、はっとして、ルックはいう。
「ご、ごめんなさい。つい･･････」
「いや、いいんだ。この国の“作られた人間”の中には彼女に世話になった者が何人かいるっていうのは知っているからな」
　まあ、今更いうまでもないことなのかもしれないけれど。
　で、少々、思っていることをいってみる。
「なんていうか、いつも思うが、私はそのかっての科学者の彼女のかわりにされている気がするんだ･･････」
　すると、助手席に座っている彼は苦笑して私にいう。
「似ているから、ついついアリアの中に彼女を見てしまうんだよ」
　が、そういっても、別に私のせいでも何でもない。
　なのに、それが当然だろうといわれても、わからいでもないが、ちょっと困ってしまう。
「作ったのはシュウでしょうが･･････」
「まあ、そうなんだが･･････」
「アリアさん、Ｄｒ．ＳＹＵも流石に困ってますよ･･････」
　ルックが困ったような顔をして、彼と私を見ていう。
　まあ、そんなことをいっても困るだろう。が、
「いつも、その手の話題はみんな言葉を濁すからな。思わず聞きたくもなる」
　少々、本音を告げた。
　私に気を使っているのか、それとも、どうやらあまりいいモノではないらしい過去に触れたくないからなのか、本当のことはわからないのだけど、私の会う人間はほとんどそうなのだ。
「アリアさん･･････」
「アリア･･････」
　困ったような顔をする男達にちょっと不機嫌な顔してから、私はいう。
「まあ、いい･･･。旅行中にしっかり“シュウ”に聞いてやるから･･････」
　「そうして下さい」
　ルックは苦笑した。が、勿論そのつもりだ。
　そのためにも、“彼”を蘇らさなければならないのだから……。
「やれやれ」
　二人の男は苦笑する。
　でも、それをいいたいのは私の方じゃないかなあと、ふと思う……。

「じゃあ、そろそろ行くか？」
　助手席に座る彼にいう。結構時間が経っていたのだった。
「ああ、じゃあなルック…」
　そういうと、彼はルックに軽く手を振った。
「いってらっしゃい…」
　そして、ルックは無邪気に笑って、敬礼して見送った。

　私と“ここにいるはずのない彼”を……。

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