1.実質的部長は黄昏れる・・・・・・!? その1
「事情を聞かない事にはね・・・・・・」
私はそういうと遠慮もせず、演劇部の部室の椅子に座った。
で、その私の向かいには、ちょっと困ったような顔をした演劇部部長・・・ではなく速水ちゃんがそこにいる。
といっても、彼女は実際の部長のようなものなのだが。
「やっぱりいわないと駄目か?」
彼女は困ったようにいう。
「当然だろ。疑問を持ったら、基本的に、できるだけ初期症状のうちに解決するのが鉄則でしょう?」
でもって、私は極々当たり前のことをいう。
「まあな。だけど、演劇部の恥になるからな・・・・・・」
言い渋る彼女に、私は多少突き放すようにいう。
「恥になって嫌ならいわなければ、いいでしょうが? そのかわり脚本のことはなかった事に私はするだけだ・・・・・・」
私はしごくアッサリといった。
「何も聞かず手伝ってっていう方がそもそも間違いだ」
「まあな・・・・・・」
何の事かわからないだろうから、説明すると以下の通りである。
朝、速水ちゃんに私は脚本を書くようにと頼まれたので、まあ、やってもいいが・・・・・・ということにはなったのだ。
(参照 プロローグ 2)
で、只今放課後で、速水 僚率いる演劇部の部室である。
そして、私は“気になる事”を速水ちゃんに質問したのである。
『そもそも、私が脚本を描く羽目になった原因って何なのよ?』
と、いつもは歯切れのいい喋り方をする速水ちゃんが、珍しく曖昧にぼやかした言い方をしたのである。
で、その話題から私を逸らさせるような素振をしたので、私はちょっとイラついて彼女にいうのであった・・・・・・。
「別に私は君の子分ではないし理由も聞かず、君のいいなりになる気は毛頭ない。逆にそれを私に求めるなら友情関係を見直さざるおえない・・・・・・」
「イキナリ極論をいうなって・・・・・・」
「まあ、例え友達とはいえ、すべてをさらけだせるものでもないが、知る権利は誰にでもあるし、ましてや情報提示を求める事を禁止される筋合いはない」
「プライバシーを守る権利はどうなる?」
「それは君が守れば?」
「私は最低限度の事も教えてもらえない状況で、何かをするっていうのは、できそうにない・・・・・・。私は君の友人ではあっても、君の信仰者ではないよ」
速水ちゃんは呆れていう。
「お前なあ・・・・・・。どーしてそう屁理屈をいうんだか・・・・・・。
まあ、もっともな事をいっているわけだけどさ」
「おや、わかってたんだ?」
しかし、わかってていっているからといって、納得できるものではない。
で、速水ちゃんは、ちらっと私を見る。
「でも、そもそも部外者に話していいものかと・・・・・・・」
まあ、一理はあるかもしれないが、私はいう。
「ほう・・・? まあ確かに私は演劇部には所属していないわな・・・・・・? だが、その所属していない演劇部に対していろいろと手伝ったり、脚本書いたりと、自分でいうのも何だがワリと尽くしているのに、部外者っていうのは私って浮かばれないと思うが?」
なんというか、速見ちゃん。君は私を利用するだけ利用して、こちらのいい分は“部外者”ということで、誤魔化す気なのか?
私はそうチラっと思う。
「そうだが・・・・・・。そんだけいうなら、お前、演劇部に入れよ。特別待遇してやるよ」
「何気に勧誘されても困るね。私は団体行動はニガテだ。だから入ってる部活は個人の行動を縛らないものに限っているのよ。ついでにいうなら予備校行ってるし・・・・・・」
「私だって、予備校にはいってるが・・・・・・」
で、速水ちゃんは、多少反論するようにいう。
私は溜息を吐きながらいう。
「まあ、別に私は部外者ですからねえ。脚本書かなきゃいけないという義務はないわけだし・・・・・・」
私は多少嫌味たらしく、ただし正論を速水ちゃんにいった。
演劇部の皆さんは私と速水ちゃんの成り行きを見守っている・・・・・・。
「というか、お前の脚本、評判いいんだぞ・・・・・・」
なんだか困ったように彼女はいう。
「お世辞いってもらわなくても結構だよ」
我ながらドライにいうと、速見ちゃんは更に困ったようにいう。
「いや、お世辞じゃないって・・・・・・」
でもって・・・、
「そもそも、速水ちゃん。君だって脚本ぐらい書けたのでは・・・・・・?」
私はふと疑問に思ったことをいってみる。
「書けなくはないよ」
彼女はいう。
「なら、君が書けばいい。演劇部のことを私よりもよく知っている君が書けば問題はないと思う」
私は正論をいってみる。
確かに私は演劇部とは少なからず関係者になっていて何度か脚本係やら美術係なんぞもやったことはある。
が、部員の個性とか性格とかを把握しているのは、どう考えても速水ちゃんの方である。
何せ、彼女がこの演劇部をまとめているのだし。
「いや、ナマジ仲間なだけに荒れるんだ・・・・・・」
速水ちゃんはいう。
「ほう? 私は仲間じゃないから大丈夫だと? だったら他の人間でもいいのでは?」
私は思った事をいってみる。
「いや、そ〜いうわけじゃなくて・・・・・・」
彼女はホトホト困った顔をした。
私はそれを見て少しだけ笑った。実いうと、ちょっと楽しい・・・。(爆)
そう思う私はちょっと性格が悪いかもしれない。
でも、そうなってしまうのは、話してもなんでもなさそうな事を変に誤魔化そうとするからだ。
なんかナメられたようで気分はよくない。
まあ、彼女がそんなことをするには何かあるというのはわかるのだが。
ついでにいうなら、そういう態度に出られると、無意識のうちに好奇心の中でも、ちょっと悪質のモノがでてきてしまったりもする。
そうなると私は多少は性格の悪い人間に様変わりする。
そして通常よりあ〜いえばこ〜いう、こ〜いえばあ〜いう度もしっかり上がるのだ。
その相手が友達だろうと親友だろうと先生だろうとやってしまうので、結構びっくりする奴は多いらしい。
私は日頃温和だから意表を謀らずもついてしまうのかもしれない。
とまあ、それはさて置いて・・・・・・。
「ほどよく部員の事を知っていて、尚且うまいバランスで脚本書けるのって、お前ぐらいしかいないだろう?」
でもって、速見ちゃんはいう。
「そういってもらえると多少は嬉しいけどね」
素直にその言葉は受け取っておくことにした。
でもって、更に速水ちゃんはいう。
「お前の脚本は、部員達にも評判いいしな・・・・・・。そして、流血騒ぎになる恐れもない」
なるほど・・・・・・。って、
「ちょと待て、流血騒ぎって何だよっ!!?」
何でもないことのように速水ちゃんがいうので思わずツッコミを入れてしまう。
「いや、うちの演劇部、脚本が気に入らないとか・・・・・・、まあ脚本がらみで、よく喧嘩というか、かる〜い流血騒ぎを起こすんだよ」
速水ちゃんは何でもない事のようにいう。おいおい。
まあ、確かにそんな重症なものは起こしてないだろうけど…。
「な、なんて、武闘派な・・・・・・」
「何いってるんだか・・・。演劇部だから当然だろう?」
速水ちゃんは至極当然に答える。
「おいおい、本当かよ!?」
そういいながらも、ちょっとばかし考える。
「う〜ん、多少譲って、意見のぶつかり合いはよくあると思うが・・・」
まあ、仲間同士だって、こういうことはあると思う。
でもって、彼女はさも当然というようにいう。
「そうだよ、それがよくエスカレートして拳のぶつかり合いになるだけだ」
「演劇部というより、お前ら格闘部にした方がいいと思う」
思わず私はいってしまう。間違えてはない気がするぞ。
で、速水ちゃんいわく、
「おいおい。でも、まあ、それもいいかもなあ・・・・・・。私も時々は暴れたいし」
「駄目ですっ!!!」
乾さんが抗議の声を上げた。
「いくら武闘派だからって、格闘部やってど〜すんですっ!!」
確かにその通りだ。が、私はいう。
「いっそのこと武闘派演劇部ってのもいいかもしれない」
で、速水ちゃん、
「それ、いいかも。暴れられそうだし・・・・・・」
納得しているあたり、ちょっと問題である。(爆)
「魁、武闘演劇部ってこと?」
「おおっ、それいいやっ!!!」
「全然、よくありませんっ!!!」
乾さんは『いい加減にしないと殴るぞ、オラッ!!』というオーラを放っていう。
「まあ、話がずれたから戻すけど、あんまり脚本で拳の語らいになるって話は聞いた事はないぞ」
私はともかく、話の軌道修正する。流石にボケ倒していても話は進まないからだ。
が、速水ちゃんはそうでもない。
「言葉よりも能書きよりも拳で語った方がわかる時も多いものだろうが」
一瞬、納得したが、なんか違う気がする・・・。
「血の気が多いなあ」
素直にそう思う。
「そうか?」
速水ちゃんは怪訝そうな顔をする。
「私は体力がないから、君のようには思わんよ」
で、脱力しながら私はそう答えた。
「意外に平和主義だよなあ・・・・・・」
「・・・・・。直接攻撃よりも間接攻撃の方が得意なだけ」
私はサラリと返す。
「お前、それはそれでタチが悪いぞ」
君にはいわれたくないんだがと思いつつ、私は律儀に答える。
「しかたないだろうが。モノを作るのが好きな人間の特徴だ・・・・・・」
私は開き直っていう。いってて、ちょっと違うかもしれないとも思ったが、この際無視をする。
「まあ、そういうやつだから、ある意味この演劇部の連中が納得する脚本ができるんだと思うんだけどね」
で、速水ちゃんはふふっと笑った。
「なんていうか、ひっかかりのある言い方だなあ・・・・・・」
「いや、マジにそうだもの」
速水ちゃんは大真面目にいう。でもって、
「みんながみんな、この演劇部は自己主張が強いからな。まあ、大人しいのもいるけどな・・・・・・。
納得できないものだと、意見バシバシいうんだよ」
「いいんじゃない? 何にしろグループでいいものを作ろうとなれば、おのずと意見は対立しあい、時には喧嘩にもなるものだ・・・・・・」
私は極々当然のことをいう。
「そうなんだがな。限度ってものがあるんだ・・・・・・。いくら、演劇のためだといって一生懸命だとしても、流血騒ぎをそう何度も何度も起こされるとこちらの体力がもたないだろうが・・・・・・」
と彼女は軽く喰ってかかる。
「じゃあ、体力作りに励め」
そんな私はしれっとして答える。
「お前なあ・・・・・・」
速水ちゃんは私を恨めしげに見て溜息を吐いた。
「つまりね・・・・・・。そ〜んなメンバーを納得させるだけの脚本書くのは至難の業なんだよ。で、お前はそれをアッサリとクリアしてくれるから、頼んでるんだよ。これ以上流血騒ぎ起こしたくないからな」
「そういってくれると有難いが、脚本係は他にもいるだろうが・・・・・・。私があれこれ、やってしまうのはマズイのではない?」
私は一応の正論をいう。どうやら、現在脚本係が行方不明ならしいが、それがちゃんと存在するのに私がやっていいものか考えてしまうのである。
「ああ、それはいいんだ」
速水ちゃんは微妙な溜息を吐いた。
「・・・・・・? なんだそりゃ・・・・・・?」
かつて私はここの演劇部の脚本係の女の子達と協力してというか、女の子達をこき使い(!?)脚本を作った事があるのだ。
とりあえず、そこそこにいい脚本を書く子達ではあったと思う。
それなのに、この言い方はなんだか・・・・・・。
「とりあえず、脚本係って思い出したけど3人はいたよね?」
私がそういうと、速水ちゃんから・・・そこにいた部員のほとんどの動きが止まった。
「どうした・・・・・・?」
明らかに何かあるような様子なので、逆にワザと速水ちゃんに聞いてみる。
「ついに“禁断の言葉”をいっちゃいましたね・・・・・・」
そういったのは今まで冷静にこの話の流れを見ていた玲香ちゃんであった。彼女は剣持 玲香さん。速見ちゃんの後輩、乾さんの友達でもある。
「“禁断の言葉”・・・・・・?」
私はなんなんだと速見ちゃんと玲香ちゃんを見る。
「もう、神崎先輩だったら話してもいいと思いますよ」
そう速水ちゃんにいったのは乾さんだった。
「じゃあ、いうけどいいのか・・・・・・?」
速水ちゃんは部員達を見回した。部員達はただ頷いた。
「いっておくけど、他の奴にはいうなよ・・・・・・」
と念を押すと速水ちゃんは私にいう。
「実はこの演劇部、脚本係が実質的にはひとりもいないんだ・・・・・・。まあ、少し前までは確かにお前のいうととおり3人はいたんだ」
「えっ!!?」
姿勢を正して彼女がいったセリフに私は思わずキョトンとしてしまう。
速水ちゃんは淡々と告げる・・・・・・。
「ひとりはさっきいった脚本をめぐる・・・まあ、お前がいう、武闘派な拳での語らいが嫌になって、ドロップアウトしたんだ・・・・・・」
「・・・・・・。まあ、そりゃあ、嫌になるだろうな」
自分の書いた脚本にケチを付けられるわ、流血騒ぎなんぞ何度も起こされたら、そりゃあ嫌になるだろう。
「もう、ひとりは、突然転校しちゃってね・・・・・・」
「まあ、これはしかたがないなあ」
流石に転校した学校での生活があるわけだから、こちらの都合だけを押し付けるわけには、やっぱりいかない。
「で、残るもうひとりは・・・・・・?」
私はいうように促した。
と、速水ちゃんは何ともいえない怒りの顔をしていったのだった。
「部長と駆け落ちしてしまったんだああああああっ!!!!!」
「はいいぃっ!!?」
私は呆然とした・・・・・・。
なんというか、何でそうなるのよ・・・・・・?
1.実質的部長は黄昏れる・・・・・・!? その2 に続く