1.実質的部長は黄昏(たそがれる・・・・・・!? その2

「か、駆け落ちっ!!?」

「ったく、そ〜だよ、駆け落ちだっていうのっ!!
しかも、ど〜いうわけだか、今までの脚本のデータをぜ〜んぶ持って駆け落ちだよっ!!」

 あまりにも予想外で私はちょっと呆然(ぼうぜん)とした。

「な、なんというか・・・」

「んで、脚本係は誰もいなくなってしまうわ、脚本がないわで、どうにも練習も何もできなくなっちゃって・・・・・・。仕方がないから、うちらで脚本を作ろうとしたんだが・・・・・・・」
 速水ちゃんは説明をし始める。
「脚本係がいた頃ですら、武闘派なのに、この3人がいなくなったわけだから、まとまるものもまとまらないんだ」
 ・・・・・・。脚本係はこの部活の緩和剤(かんわざい)なのか・・・?
 一瞬、私の頭の中に疑問が過ぎった。が、それはさておいて、
「つーまーり、朝の部室の荒れ模様はそれが原因だったのね・・・。結局あのあと大したことも(しゃべ)れなくて御開きになったから、いまいちわからなかったのだけど・・・・・・」
 (※プロローグ2 参照)
御明察(ごめいさつ)
 と速水ちゃん。なんというか・・・・・・。
「だから、こんな状態じゃあ、(らち)があかないし、お前に頼めば平和かな・・・?と思ったわけだ」
 へ、平和って・・・・・・。(汗)
 でも、部活のメンバーではどうにもならないというのなら、部外者の協力を仰いでしまおうというのはありかもしれない。
「マサカ、脚本係が一気にいなくなるわ、脚本のデータも持っていかれて、部長も部長で脚本係と駆け落ちでいないわなんて事が起きるとは思わなかったよ・・・。流石(さすが)にあたしも困った・・・・・・」
 そりゃあ困るだろう。というか、なんなんだと黄昏(たそが)れもするだろう。
「・・・というか、部長って随分無責任だなあ。なんで、そんな奴が部長してたんだよ・・・・・・」
 思わず私は思った事をいってみたくもなる。
「・・・・・・。神崎先輩がそういうのもよ〜くわかります」
 (いぬい)さんは否定のしようがありませんといった感じでいった。
「おまけに、要はその部長ととある脚本係が、今までの脚本のデータを持っていっちゃったんだろう? 問題外だぞ・・・」
 こんなわけのわからんこと普通やるか?
「そのとおり最悪です。でもまあ、そもそも部長って何もしない人でしたねえ・・・。だから、実質的に速水先輩が部長代わり・・・というかほぼ部長になっていたぐらいですし。だから、最近入ってきた演劇部の子達は速水先輩が部長だと思っていましたね」
 更に乾さんは淡々と告げた。
「で、それだけならマダしも、今回は遂にこんなことになるんだから、本当にシャレにもならないですね」
 本当にシャレにならない。
「なんだかなあ・・・・・・」
 この部長って一体・・・・・・。というか、どうして、そんな奴が部長をやっていたんだ??? 本当にカナリの謎である・・・。
「・・・・・・。流石にそんなオチが来るとは思わなかったな」
 あんまりにもフザけた真相(しんそう)を聞いて脱力する。
「だろうな。神崎がいうのはもっともだよ。おかげで今、部長はいない、脚本もない脚本係もいない、脚本いまだに決まらない・・・なんて、前代未聞な状況に今のこの演劇部はなっているんだ」
 溜息(ためいき)を吐いて速水ちゃんはいう。なんというか、いや〜な演劇部である・・・・・・。
「とりあえず、そんな言語道断なことをする部長はいらんものなんじゃない? なんか、いないと困る者なのかもしれないが、いたら実はもっと困るもののような気がするぞ、いっちゃ悪いんだが・・・・・・」
 で、私は間違えてはいないと思うことをいってみた。冷静に考えてみて、この部長は問題がありすぎる。
「まあな・・・。だけど、それでも部長なことには変わりないんだよ」
 が、速水ちゃんはちょっと複雑そうな顔をする。
 しかし、部長の責任を果たさないのも問題だが、脚本のデータとかを持っていった脚本係と駆け落ちなんぞフザけ過ぎである。
 いや、そもそも協力して、脚本をうばったあげく、ふたりで逃亡という形をとったのか・・・・・・?
 まあ、どちらにしろ、()められた事ではない。
 私は素直にそう思う。が、速水ちゃんは少々不可解なことをいう
「・・・。でも、部長がこんな風なことをした理由っていうのは、ちょっとウチらにも原因がないとはいえない気もするんだ」
「なんだそりゃ???」
 私は思わず速水ちゃんを見る。
 で、彼女は、部長を少しばかり擁護(ようご)(!?)するようなことを更にいう。
「まあ、大した事じゃないんだ。でも、因縁(いんねん)・・・といえば因縁かな・・・・・・?」
「ど〜いう因縁だよ。まあ、どんな因縁だか知らんが、えらく迷惑な部長だってことは変わらんぞ・・・・・・」
 私は極々素直にそう思う。
「まあね・・・」
 速水ちゃんはチョットだけだが、部長を庇うようなことをいうものの、やっぱり否定はしなかった。
「まあ、元々あの部長が問題ですよ」
 ふと、玲香ちゃんがあっさりという。
「確かに、自業自得だというのに、逆恨みしたあげく、こういう事態を引き起こすんだから、ど〜しょもないですね」
 そして、乾さんもやや憮然(ぶぜん)としていう。

 ・・・・・・。どうやら、詳しい事はわからないが、あまりこの部長は好かれていないようだ。まあ、こんな事態を引き起こす部長に好意を持てといわれたって無理な話ではあるが。
 にしても、なんだかこの部長、元々いいイメージがないようである。 もし、仮に元々いいイメージのある部長だったとしたら、ここまであからさまにいわないと思う。
 というか、どうして、そんな奴が部長になれたんだ?
 (はなは)だやはり不可思議・・・である。

 が、それはともかくとして・・・、
「せめて、この前やった劇の脚本があれば、結構助かるんだけどなあ・・・・・・」
 ふと、速水ちゃんは黄昏れて(つぶや)いた。
「・・・・・・? なんで・・・・・・?」
 私は疑問に思ったので聞いてみる。
「いや、今度の演劇祭・・・というか、演劇発表の時にな、ふたつ劇をやらなきゃいけないんだ」
「ふたつもやるのか・・・・・・」
 演劇をひとつだけでも大変だがふたつなのだ
 漠然(ばくぜん)とだけど、なかなか難儀(なんぎ)だとは思う。
「で、この前の文化祭の劇で、お前が書いた脚本あるだろ・・・?」
「ああ、わりと笑えるものにしたあのヤツね・・・・・・?」
 私は答えながら、その脚本を作った時のことをぼんやりと思い出す。そして、手伝ってくれた、現在はこの演劇部のいない脚本係の女の子達のことも思い出す。
「そうそう、それのことなんだけどな、内外にウケが良くてなあ・・・・・・。アンコールも来ているんだ。で、今度やる演劇のひとつはそれをもう一度やるつもりだったんだよ・・・・・・」
 速水ちゃんは苦笑していう。
「それに、あたしらからすれば、その脚本は客を入れ込むための貴重な材料なわけで・・・・・・。つまり実いうと部費のタシにもなる美味しいモノなわけだよ」
「なんか、凄い話になっちゃったな」
 私は半ば呆れつつ速水ちゃんの話を聞く。
 まさか、以前自分が書いた作品(正確には脚本係と協力した)がそんな重要なものになっているとは思わなかったのだ。
「これからのこの演劇部の定番にしたかったのにな・・・・・・」
 本気で速水ちゃんは(くや)しそうにする。そりゃあそうだろう。折角手に入れた部費稼ぎの元を奪われたのだから。
「それに、それがあれば、今、新しい劇の脚本はないけど、まず、ひとつめ劇の方は、先に練習なりなんなりを進めることができるからな。あったほうが有難いことこのうえないんだ・・・」
 本気で彼女は悔しそうにいった。それこそ、悔しくてたまらないというように・・・。

  「ところで、その脚本1冊もないの・・・・・・?」
 私はふと聞いてみる。
「完全なものはないです。何せFD(フロッピーディスク)は持っていかれちゃったし、完全な脚本も持っていかれちゃったし・・・・・・。みんなも、もう脚本は持ってない人が多いし、持ってても自分の出てくるシーンしか残ってないとかボロボロになってしまってあんまり使えないんです・・・・・・」
 と申し訳なさそうに玲香ちゃんはいう。案外脚本の寿命は短いものであるようだ。でもまあ、仕方ないといっちゃ仕方ない。
そんなにいい紙を使っていたわけでもないし、本当にメモやらなんやらで書き足しとかいろいろやっていた関係で大事に使っていても結構ボロボロになるのだ。
 で、私はいう。

「・・・。一応いっておくが、前の脚本のデータなら私も持っている」

 ・・・・・・。
「マジかいっ!!?」


 一瞬の沈黙の後、速水ちゃんが、部員達が、一斉に驚いて私を見た。
「だって、あれは脚本係3人と私の合作という事になっているけど、実質的に私が作ったようなものだもの。つまり、ほとんど私の作品だもの。バックアップデータぐらいは取っておくものだ」
 私は至極当然に答える。で、更に、
「折角の作品のオシャカにしたら悔しいからね。万が一という事を考えてそういう事はやってあるのよ」
 と理由を述べた。
「流石だな・・・・・・」
 速水ちゃんは(ひど)く驚いた顔をする。
「当然だ。自分の作品は愛しいものだ」
 そして、私はふふんとしていう。
「・・・・・・。今回ばかりはお前の唯我独尊的(ゆいがどくそんてき)発想がありがたいぞ」

「お前はケンカを売ってるのか・・・っ」

 しっつれいな奴である。
「いや、そんなつもりはないんだが・・・」
「君ねえ・・・」
 自覚症状のない速水ちゃんにあきれてしまう。まあ、速水ちゃんらしいといえば、そうなのだけど。
 でもって、
「・・・。別にあの脚本は演劇部のために作った作品といえばそうだけど、同時に私の作品としても成立してるわけだしね。だから、データ全部は渡さなかったのさ」
 で、更に私はいってやる。
「それなりに私も気にいってたからね。自分の作品でもあるのに、自分の手元にないってのは腹立たしい」
「お前ってやつは・・・・・・。なんというか、流石だ・・・・・・」
 速水ちゃんは、ともかく喜んでいるようだった。
 が、私は素直には喜べない・・・。

「ところで、許せませんねえ。その脚本のデータを持っていっちゃった脚本係・・・いや、元脚本係というのは・・・・・・」
 自分の声が微妙に低く冷たくなるのがわかる。
 まわりの人間が私をちょっと驚いたように見た。
「その元脚本係と一緒に駆け落ちした部長も許せないがね、元脚本係のソイツを多分私は絶対に許さないと思うよ・・・」
 部長と一緒に駆け落ちをするぐらいなのだから、この二人は協力体制があると考えていいだろう。つまりふたりとも同罪といえば同罪だ。だが、二人ともムカついたが、私は特に元脚本係のほうが許せなかった。
「何処にいるかわかる・・・・・・?」
 私は誰ともなく聞いてみる。
「いえ、残念ながら・・・・・・」
 と、乾さんは答えた。で、私はいう
「速水ちゃん、今度は私が怒る番だと思わない?」
「・・・・・・。お前、何か企んでる・・・・・・?」
 ちょっと驚いたように速水ちゃんは私を見る。
「企んでるもなにも・・・・・・。ソイツに一矢報いて(がけ)ぐらいに落としてやらないと・・・」
 と私はあっさり答えた。
「だいたい、ほとんど私の作品だっていうのに、私物化したあげく、持っていくその神経が許せない・・・・・・。私はここの演劇部が使う分にはかまやしないとは思っているよ。だが、個人的レベルで勝手に使うことを許した覚えは何もないんだ」
  「結構怒ってるな・・・・・・」
 速水ちゃんは苦笑していう。
「・・・。怒るなってほうが無理だぞ。まあ、ただ許さないだけ。だから反撃してやろうと思うよ」
「ほう?」
「とりあえず、その脚本をパワーアップさせたものを演劇部にくれてやるよ」
 私はふふんとしていう。
「あんな脚本なんて目じゃないことぐらいは見せてやる・・・・・・。あの脚本を持っていったってことを考えると、この脚本がないとこちらが困るというのを見越(みこ)していた可能性が高いと思うしな」
「・・・・・・。その推理当ってるかもしれません」
 ふと乾さんはいう。
「あの子は脚本の重要性はわかっているはずですからね」
「ちょっと待て・・・・・・。なんで、それならわかっているなら、そんなことするんだ・・・・・・?」
 速水ちゃんは不思議そうに私にいう。おいおいおい・・・、速水ちゃん・・・。私は軽く脱力した。
「あのねえ・・・・・・。こちらが困るというのをわかってワザワザ困る事をするっていうんだから、理由は大方決まっているでしょううが・・・・・・・?」
「えっ・・・・・・?」
「脚本係のその子は、この演劇部を潰そうとしている可能性があるって事です。少なくとも悪意はあると思いますね」
 速水ちゃんに乾さんはドキッパリいった。
「そ〜いうことだ」
 私はあっさりという。
「な、なんで・・・・・・?」
 が、速水ちゃんは酷く驚いた顔をする。彼女からすれば、とんでもないことをしたとはいえ、元仲間である。
 そんなことを考えているかも・・・なんていう発想はないのかもしれない。しかし、そうではない私は極力冷静にいう。
「悪意をもってなきゃ、大切な脚本のデータとか持っていく? なくなると君達が困るのをわかっていながら・・・・・・」
「何か事情があるんじゃないか?」
 しかし、どうやら彼女を信じたいらしい速水ちゃんはそんなことをいう。でも、私からすれば、何を呑気(のんき)に考えているんだ?と思う。
「どんな事情・・・・・・? あってもろくなものじゃない気もするがね。そもそもどんな理由だよ?」
 どう考えても脚本係の子がやったことは、善意でやったと考えるには無理がありすぎる。というか、ど〜考えても無理だ。  私からしてみれば、喧嘩(けんか)を売られた風にしか見えない。
「そんな・・・・・・。・・・・・・」
 脚本係の疑惑に速水ちゃんは困ったような顔をした。
 仲間を信じたい・・・・・・、そんな思いがあるからなのだろう。
 ただ、私にはそれはない。
「・・・・・・・。とりあえず、ソイツは作品に対して、おちょくってる事をかました。だから私は許さない。それだけだよ」
 なんでもなく私は告げる。
「なるほど・・・・・・」
 やや、納得したように速水ちゃんは(うなづ)いた。
 そして、私は、多少冷ややかに告げる。
「事情はわかった。あと、とりあえず更にそれプラス新しい脚本も書いてやるよ。約束どおりにね・・・・・・」
 と、部員達が少しぞっとしたように私を見た・・・・・・。
 
でもって・・・、
「だから、朝飯はしばらくオゴリね」
 ずるっ!!!
 一気にその場はずっこけた・・・・・・。

「それに報酬もちょっと頂きますので、よろしく♪」
「ちゃっかりしているなあ・・・・・・」
 と脱力した速水ちゃんはいう。
「じゃあかしいっ!! ただでやるほど、お人よしじゃないっ」
 私はしょ〜もない事をいい放つ。
「オマケに今回はふたつの脚本制作だ。こんくらいはしてもらうぞ」
「そこまで、いうんだったら、ちゃんと書けよ」
 速水ちゃんは更に脱力していう。
「当然だ。へぼい作品作ったら私のプライドが許さないよ。お茶を(にご)していい加減なものをつくる趣味はない。たとえ、自分の所属していない部活の作品でもね」
 私はあっさり速水ちゃんにいい返す。

「なんというか、これはこれで、凄い展開になったというか・・・・・・」
 乾さんはそうのたまう。
「・・・・・・。う〜ん、でも部員同士の流血騒ぎはこれで回避はできたとは思う・・・・・・」
 玲香ちゃんはちょっと複雑そうな顔をする。
「部員同士はね・・・・・・」
 乾さんは溜息を吐いた・・・・・・。
「というか・・・・・・、そ〜いやあの前の脚本、喜劇というか・・・・・・、カナリ暴れ回るお笑いだった気がする・・・・・・。そうなると、主役は頑丈さからいっても速水先輩になるだろうなあ・・・・・・」
「そうだねえ・・・・・・。速水先輩もあの主役やっている時は楽しそうだったし、いいんじゃないかなあ・・・・・・?」
 のんびりと玲香ちゃんは答えた。
「しかし、玲香ちゃん・・・・・・。神崎先輩がいってたセリフって気にならない・・・・・・?」
「・・・・・・?」
「神崎先輩は前の劇の脚本をパワーアップさせるっていってたでしょう?」
「ああ、確かに・・・・・・」
「・・・・・・。どんなものになるのか、ちょっと怖い気が・・・・・・。流血どころか死人でたらどうしよう・・・・・・?」
 で、乾さんと玲香ちゃんは思わず考え込んでしまった。
 おいおい・・・。
 まあ、とりあえず、なんやかんやといいながら、こうして、この演劇部は動き出していくのではある・・・・・・。

 が、この先、どうなるのかなんてわからない。
 でも、ただ前を向いて進んでいかなければならない。

 そう、それだけは少なくとも確実な事ではあるのだけど・・・・・・。





   というわけで、こうして演劇部は動き出す・・・・・・

  1.実質的部長は黄昏れる・・・・・・!? 終了



  2.嵐を呼ぶ、猫又(ねこまた)と実質的部長!!? その1に続く



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