4.マトモに演劇部活動!!? その6

30分後・・・・・・。

「絶対、鬼になっている〜」

 カナヅチで釘をトントン、いやガツガツと打ちながら速水ちゃんはボヤいた。
 早速、壊したカキワリの修理である。
 しかし、そんなにイジけて、何を主張しているのやら、謎である。
「何をほざいている? とっととそこを仕上げて、こっちもやって!!」
 が、私はボヤく人間に優しいわけではない。
 それが演劇部の部長(厳密には副部長)だろうが、何だろうが関係ない。

「は、は〜いっ・・・・・・」
 ひ〜っ!!といいたげに速水ちゃんは作業を進める。

 釘を(くわえつつ、私はどんどん接木をして釘で打ち込んでいった。
 一見、単純に見えるが、数を多くこなしていくとなると、それはそれで大変な作業である。
 要は現在、割れたカキワリのなかで、つなげて元に戻せそうなものを直しているのだった。
 その場は木の匂いやら接着剤の匂いやらで充満している。まあ、湿気がないだけマシだ。

「神崎先輩、海のカキワリの色、どうします・・・・・・?」
 で、伶香(れいかちゃん登場。
 彼女は只今海の背景が描いてあるカキワリの修正をしていたところだった。
 このカキワリは、そんなに破壊されたものではなかったが、ところどころ色がとんでなくなってしまってるのだ。
 で、色を塗るにしてもどうしようということである。


 私はとりあえず、そちらの方に移動した。


「ああ、大分色が落ちちゃったなあ・・・・・・。うーん、でも全体を塗りなおすほどでもないかな・・・・・」
 私は、形だけはどうやら復活したカキワリをしげしげと見る。
「そうですよねえ・・・・・・」
「なんというか、微妙な状態だな・・・」
 美術係の玲香ちゃんでも、ちょっと考えてしまうカキワリの状況だ。
 更に詳しく見てみると、色は剥げている。でも、全体を塗りなおすには、剥げた面積が小さく、かといって、剥げた部分を 塗り足すと考えると、これはこれで大きい・・・。
 中途半端な壊れた方をしているものは、判断にも少々迷う。
 全体を塗りなおして、綺麗するには手間、時間がかかるのだ。そして、修理のための材料だって タダではない。そう豪快には使えない。
 カキワリだけに手間をいっぱいかけるわけには、どうにもいかない以上、リスクは最小限に 押さえたいところである。

エコや節約というべきか、ケチというべきか・・・。

「とりあえず色が剥げてるところを塗り足しておこうか? まずはそうしようか?」
「・・・・・・。まあ、おかしくなったら全体ですねえ・・・・・・」
 結局のところ、エコ・節約を優先した形を取る。
 無謀にガンガンやればいいとはいえない。もっともケチケチすればいいというものでもない のも事実ではある。
「そうだね。後は伶香ちゃんが判断して進めちゃってよ。まずは全体的一気にに直しちゃおう。細部は後でで。今回はスピード重視だ」
「色塗り終わったらまた、そっちいって手伝います」
「ありがとう、かなり助かる、それ」
 彼女は美術係とあって、ものを修理、修繕することに長けているのだ。私の考えも結構そのせいか、汲み取り 行動してくれるところもあるので、重宝する人でもある。
 それを考えると、速見ちゃんが凄くムカつくやろーにも思える。

 ったく、カキワリ壊すなっ。

 執念深い人間のつもりはないが、やはり、苦労して製作したものを壊されれば、いい気分は しない。
 部活のことで悩んでいるのはわかったにはわかったが、だからといって、 すっかり許せるかというと、それは違う。

 一応、本人はどうやら反省しているようだが、今度やったら、どうしようか・・・。

 ちらっと、そんな事を考える。
 速水ちゃんは自分自身のことを、サバサバした性格だといっていたが、ものを壊すこともまで、 サバサバして、どーするのだ。まったく・・・。 なんて破壊指数の高い奴なのだ・・・。


 そして、私は元の位置に戻り、カキワリの修理である。
 他の部員(速水ちゃんの親衛隊も含める)も急ピッチで作業を進めていった。
「・・・・・・。ホントに速水先輩がほしがるのがわかりますねえ・・・・・・」
 と、しみじみと(いぬいさんの声が聞こえる。
 彼女はカキワリの修理に使えそうな木材を運んできたところだった。
「お疲れ様です。沢山だね」
 彼女の手にした木材は両手で抱えきれないほどある。
「いえいえ。まだまだいっぱいありますから、安心してください」
 にこやかな笑顔にちょっと戦慄を感じつつ、これだけ木材があるなら、なんとかなるかなと 彼女の持ってきた木材と、そういう木材を集めた教室の隅をみやった。
「意外とあったから、ちょっとしたカキワリもできると思いますよ」
「おおっ♪」
 と私・・・・・・。新しいカキワリもできるなら、いい感じだ。
 もっとも、カキワリの状況によっては、そんなことは夢のまた夢になりかねないのだが・・・。

「なんだか、一気に作業進められちゃうから、ビックリですよ・・・・・・」
 乾さんは、ちょっとばかし楽しそうにいう。
 大して、進んでいなかった演劇祭の準備が動き出したのだ。そんな風になるのもわかる気はする。
「いや、みんな速水ちゃんの親衛隊の皆様も頑張ってくれてますからねえ。私の力というわけじゃないよ」
「あの速水先輩の親衛隊まで操るってのが凄いんですよ」
 ちょっと彼女は遠い目をした。
「なんだ、そりゃ?」
 彼女の遠い目は、場合によっては、後で何ともいえないぐらいに黄昏させてくれる時もある。
「・・・・・・。速水先輩同様、なかなか思い通りには動かない人たちが多いんですよ。 それを、こ〜アッサリを動かすというのが何というか・・・・・・」
 今回も、その例に漏れず、少しばかり黄昏れた・・・。
「そういや、そうだね・・・」
「って、神崎先輩自覚なしですかっ!?」  驚いたように彼女は私を見る。
「・・・。まったくないってワケじゃない。ただいわしてもらうなら、 たまたま、親衛隊なみなさまを引き付ける要素があったから、上手い具合に動いたともいえるの かな・・・と・・・。例えば、親衛隊のみんなにとっては、速見ちゃんのボヤいて、釘打つ姿なんて、 垂涎ものなんじゃないの?」
「たまたま、ですか・・・」
「まあ、私は親衛隊やら、ファンクラブを操る術は特に発揮していないとは思うね。 私が、速水ちゃんのそーいう姿を散らつかして、親衛隊のみんなを操るなんて。戦法を わざわざやるわけないでしょうが・・・」
「・・・・・・」
「そういうのをうまくコントロールできるのなら、君や玲香ちゃんみたいに、この演劇部の ネゴシエーターになっていると思うぞ」
「ね、ネゴシエーターって・・・」
 乾さんが脱力する。どうも意外なことをいったらしい。
「乾さんと怜香ちゃんが、この演劇部のネゴシエーターだという噂はしっかりあるぞ」
 と私はいってみる。
「・・・。いや、この演劇部、交渉できる人間がいないとロクなことになりませんし・・・。 いなきゃ、ちょっと暴走するんで・・・」
 乾さんの言葉はもっともな上に、深かった・・・・・・。
「・・・。演劇部って、大変なのね」
「わかっていただけまして?」
 なんともいえない、笑顔で彼女はいう。
「嫌になるぐらいね」
 そのくらいしか、私はいいようがない。


「ところで、速水ちゃんの親衛隊って何人いるんだ・・・?」
 脱力ついでに、ふと思ったことをいってみる。
「・・・・・・。ここでは部員も含めて30人はいますね。流石に作業するスペースがなくて、 主には廊下でやってもらってますけど」
 乾さんのいう通り、廊下には多くの女の子達がキャッキャッと作業している。
 何気に手際がよく、怜香ちゃんの指示に従って楽しそうに進めているようだ。
「うーん、確かに壮観な眺めだ」
「ですねえ・・・・・・」
 ふたり、そろって、ちょっとばかし黄昏れる。
「というか、全校生徒の何%が速水ちゃんのファンなんだか・・・・・・」
「さあ・・・・・・?」
 で、私はいう。
「まあ、こんだけ慕ってくれる人間がいるっていうのも凄いよなあ」
「で、その人間達をある意味牛耳っている神崎先輩はなんなんです?」
「いや、誰であろうと、やってもらわないといけないものはやっていただこうと考えて、 接しているわけであって、そういう意識はないよ」
 で、更に言う。
「例え、カリスマ演劇部長の速水ちゃんだろ〜が、カキワリ壊した人間には変わりないからね。
そのへんをウヤムヤにしてやろうとは思わないだけ。 これで、速水ちゃんが手伝いもしないなんていったら、 カキワリで牢屋でも作って、その中に一晩ぐらいは閉じこめておきますって♪」
「ホントにやりそうでコワイですね」
 乾さんは、軽く笑っている。
「うーん、多分ホントにはやらないと思うが・・・・・。手間が掛かるしね。 せいぜいやるとしても、カキワリで2回か3回程、思いっきり殴るぐらいだ」
「・・・・・・。なんていうか、どちらにしろ物騒なことをサラリというのはやめてください・・・」
 ちょっと脱力して乾さんはいう。
「大丈夫、速水ちゃんは、そんなことでくたばりゃしませんて♪」
 私は、いっそのこと断言した。
「う〜ん・・・・・・」
「私は心の底から純粋に、それを信じているよ」
 更に、きっぱりといいきった。
「そんなこと、信じてど〜するんですっ!?」
「信じることは素晴らしいことだ」
「・・・・・・。何かが違う」
 乾さんは、とんでもなく脱力した。で、そこへ速水ちゃんが来た。
 どうやら、作業が終了したらしい。親衛隊のみんなの動きも、ちょっとだけ中断して、こちらの方を チラリと見ている。

「どうしたんだ?」
「いや、速水ちゃんの事を信じているといっただけ」
 私はアッサリという。嘘はいっていない、嘘は。
「・・・・・・? まあ、そりゃあ信じてくれるなら有難いが・・・・・・」
 そういう速水ちゃんに対して、乾さんはズルズルと脱力一直線であった。
「・・・・・・。信じる内容によっては、いや〜な気がします」
 脱力はしても、いうことはしっかりいう。
「あっ、でも信じる者は救われるというけどな・・・・・・」
 と速水ちゃんはいう。
「・・・・・・。なんていうか、う〜ん・・・・・・」
 乾さんは、ど〜やって言葉にするべきか悩んでいるようであった。
 いってはなんだが、笑えてしまう。ごめんよ、乾さん。

「まあ、それはともかくとしてカキワリをはやく直そうね」
 私は笑っていう。
「まあ、そうなんですけどね」
 やはり、乾さんはただただ脱力したのだった・・・・・・。





   こうして、演劇部な時間は流れる・・・・・・。

3.マトモに演劇部活動!!? 終了



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