4.マトモに演劇部活動!!? その5
私は速水ちゃんにフフンとして宣言する。
「というわけで、しっかりカキワリの修理は手伝ってもらうからね」
「わかってる・・・・・・」
速水ちゃんはどうやら、観念したようである。
郁江ちゃんと松本ちゃんは生徒会室に戻っていったのでもうここにはいない。そんなわけで、生徒会のメンバーがいなくなったということで、中断しかけていた作業が再び動き出すのだ。
で、早速準備にとりかかるわけである。
乾さんはいう。
「とりあえず、カキワリの修理代はそんなに出せませんからね。新しい劇の方もあるわけですし」
2つ劇をやるわけだから、通常よりも必然的に経費は掛かる。それを聞いて私は少し考える。
「怜香ちゃん、今日中にカキワリは直せるLEVEL?」
「ちょっと難しいです・・・・・・。というか無理です」
困ったように彼女はいう。美術係でもある彼女がいうのだから、やはり無理だろう。
もっとも、今朝見てしまった、速水ちゃんの壊したカキワリの状態を考えると、怜香ちゃんではなくとも、無理だとしかいえないような気もするが。
「やっぱり」
私は溜息を吐いた。
何せ速水ちゃんは破壊指数が高いのである。普通のカキワリならともかく、以前制作したカキワリは通常より薄い板で無理矢理作ったカキワリなのだ。ヤワなことこの上ないのだ。
「怜香ちゃん。接着剤とか修理に使えそうなものってある?」
せめて、そのくらいは欲しい。
修理を始めるには、使えるものは揃えられるだけ揃えておけたほうが、スムーズにいくのだから。
「この前、使った材料とかそういうのはマダ結構ありますよ」
どうやら、不幸中の幸いで、修理の材料はそれなりにはあるようである。
「よーし、とりあえずできるところから仕上げちゃうか」
と私。そうでもいって始めないことには何も始まらないことぐらいはわかっている。
で、速水ちゃんはいう。
「うーん、修理ってチマチマしていて、まどろっこしいんだよなあ」
「おいおい、ぶっ壊したのは君だろーが」
「そうなんだけどな」
おいおい・・・である。
まあ、彼女らしい・・・といえばそ〜かもしれない。で、
「大丈夫、その点は、しっかり力仕事で君にはやってもらうんで♪」
私はフフンとしていった。
「いいけど、お前って何かを作ろうとすると鬼になるんだよなあ」
速水ちゃんは更にゲンナリした顔をする。
鬼というのは、いいすぎだろうと思いつつ、
「いいじゃない? 作業が終ればちゃんと人間に戻るんだし」
といいかえす。別に問題はないはずだ。
「そこまで、やってくれるなら、やっぱり演劇部に入ってほしいんだけどなあ」
と、どこか非難めいた目をして速水ちゃんはいう。
「・・・・・・。なんというか、君も諦めが悪いな」
ここまでくると呆れてしまう。
「そりゃあな。おいしい人材はほしいものだ」
苦笑をする速水ちゃん。なんとなく、これはこれでカッコいい気がする。
「私じゃなくても、君に尽くした〜いっていう人間は多かろうが・・・・・・」
自分が認められたようで嬉しいけど、何も私でなくてもいいような気もした。
本当に彼女を慕う人間は多いのだ。演劇部にしろ、彼女のファンクラブの人間にしろ…。
「みんな、私に遠慮するからなあ。お前みたいに傍若無人でオモロイのはそうそういないぞ」
おい…。
「それは褒めてんのか貶してるのか?」
「いや、褒めているんだが? 脚本書けて、美術スタッフができて、なんやかんやらとアイデアだせるというのはカナリのポイントが高いぞ。他の演劇部だってお前を狙っているぞ」
って、いつの間にそんな話になっていたんだ??? そして、
「都合のいい便利屋になると思っているんじゃない? みんな・・・」
皮肉を込めて私はいった。利用できそうだと思えば、実際がどうであれ使えるものなら使いたいということなのだろうと思いながら。と、意外そうに速水ちゃんはいう。
「そんな悪い言い方をする必要はないと思うぞ?」
「まあ、どうでもいいけどね・・・。勘違いする馬鹿も多いんだ。『他の部活を手伝っているんだから、うちの部活も手伝うでしょ?』とかいう奴とか」
「うわっ、そりゃ災難だな」
「流石に勿論断るんだけど、そういう奴って意外そうな顔するんだよねえ。私は人のいい頼まれたら断れない人間だと思われているみたい」
「・・・・・・。まあ、ハタからみればそう思うのかもしれないな。だって、お前って表面上は明るくて、それなりに人懐っこそうに見えるしな」
「猫かぶっているだけ」
「・・・・・・。それはよ〜く骨身に染みてわかってるよ」
ゲンナリして速水ちゃんはいう。だから、私はいい返す。
「最近は猫かぶりどころか、猫又かぶりになっているぞ」
「ね、猫又かぶり!?」
乾さんが脱力する。
「伊達にあだ名が“猫又”で通っているわけではないですね」
怜香ちゃんが何故か妙に感心したように納得した。
「どうでもいいが、油は取りすぎるなよ」
で、速水ちゃんは大真面目にズレたことをかます。
「うーん、せめて健康によさげな植物油にしておくか」
「ああ、それはいいかもな」
「って、どーしてそーなるんですっ!!?」
と呆れた乾さんであった。
「いや、猫又の大好物って油なんだよ」
で、速水ちゃんは大真面目に答えた。
「ま、真面目にそ〜いわれても・・・・・・」
乾さんは、やはり呆れている。
「そりゃそうだな。まあ、それはともかくとして、とっととカキワリを直すか・・・・・・」
と私。ホントにそのとおりである。
速水ちゃんはぼやく。
「トホホ・・・・・・、身から出た錆だな・・・・・・」
「というわけで、し〜っかり手伝ってもらうからね」
で、最後通達のように私はいう。
「覚悟するように・・・・・・」
4.マトモに演劇部活動!!? その6に続く。