プロローグ その1

 何てことのない朝の風景が今日も始まる・・・・・・。

 爽やかな風がいつものとおりにそよいでた。
朝日がちょっとだけ眩しいけれど、それはそれで、いい感じだと思う。
 学校の昇降口で靴から上履きに履き替えて廊下に進むと、校内放送でペールギュント組曲の“朝”のメロディーが流れて聞こえる。

 うーん、やっぱり朝だなあ・・・・・・・。

変に感慨深く思うのは思春期のせいなのか・・・。
 って、全然関係ないのだけど・・・・・・。
 それでも、私はいつもの様に教室へ向かうのである。
 ただ、今日はいつもより早い時間なものだから、少しばかり違和感があったりする。只今7:45である。日頃は8:45頃に学校へ行くわけだから、今日は1時間も早いのだ・・・・・・。
こんな朝がはやいものだから、運動部の奴等がグランドとかで朝錬なんぞをやっている。まったく朝から元気なものである。  運動嫌いで、朝は低血圧な私としては、別世界の出来事である。
 ったく、朝っぱらから、何が楽しうて、こんな早くに学校に来ているのやら・・・。って、私も早く来ているのだから、人のことはいえないのだけど。
 ちなみに私は文科系な部活なので、朝練とかそんなものはない。だから、普通なら、こんな時間に学校へ来ていることなんてないのだ。

「あれ〜、朝早くに珍しい顔だな」
 そこにいたのはクラスメイトでもある上條(かみじょう君だった。彼は結構驚いたように私を見た。
「あっ、サッカー部の朝練かあ・・・」
 私は彼のばりばりサッカー部な姿を見て思わずそういう。
「これが、料理している姿に見えたら、それはそれで凄いと思うけど?」
「・・・・・・。サッカーのユニフォーム着て料理してど〜すんだよ」
「まあね」
 上條君はちょっとばかしニヤリと笑った。で、私はいう。
「まあ、作った料理はしっかり頂くけど?」
「・・・・・・。なんていうか、食い意地張ってるねえ」
「そうかもしれない・・・。今日、朝メシ抜いてきたからねえ・・・・・・」
「なんだ、お腹減ってるの?」
「うん、でもいいの。後で速水(はやみちゃんに朝飯(おごってもらう予定だから」
「って、おいおい」
 上條君はちょっとばかり脱力する。
でもって、私は説明するのである。
「いや、だって、速水ちゃんのせいで私は、こんなに早く低血圧なのに駆り出されたんだから、当然朝メシぐらいは奢ってもらわないとワリがあわん」
 私はふふんとしていう。ちなみに、速水ちゃんというのは、この学園で演劇部を切り盛りしている何かと有名人な私の友達(!?)だったりする。で、上條君、
「速水さんが・・・・・・?」
『演劇部の脚本何とかしてくれ〜〜〜〜〜っ!!!』 っという携帯が昨日掛かってきてねえ・・・・・・。
もう、有無を言わせずに・・・・・・」
私は少し遠い目をしていう。
「おいおい」
「まあ、とりあえず、中世のヨーロッパが舞台で素敵なラブストーリーをつくれ〜〜〜っという無茶苦茶なことをいわれたから、まあ、だだーっと彼女の希望を聞いて簡単なものは作ってやるということになったのよ」
「そ、そんな・・・・・・。そういう問題なのか・・・?」
 と呆れたように上條君。で、私は更に説明する。
「でもって、オマケに、
『部員がちょっと調子悪いから頼む〜〜〜っ』
ってなことで、ここに来ているわけだが・・・・・・」
「・・・って、ちょっとまて。君って確か演劇部ではなかった気が・・・・・・」
 実はそのとおりなことを上條君はいう。
「そうなんだけどね・・・。が、取り乱している速水ちゃんをほったらかしておくと、後々ど〜〜〜しょもないことになるし。まあ、それはそれで面白いんだけど。 まあ演劇部にはそれなりに御世話になっているからねえ・・・」
「なんていうか、律儀なことですこと」
「私もそう思う」
 確かにそうなのである。彼が呆れるのも無理はない。
「まあ、脚本を書くのは楽しいからいいんだけどね」
「・・・・・・。何気に人いいのね」
「勿論、頂くものはしっかり頂きますがね」
「・・・・・・。前言撤回」
 彼はあっさりそうかます。
 だから、私はちょっと可愛くいうのだ。
「私に無料奉仕しろと? キングギドラにレース編みをさせるようなものだね」
「なんつー例えをいってんだよ」
 上條君は本日何度目かの溜息を吐いた。
「じゃあ、ゴジラにファミレスのウェイトレスってのは?」
「ゴジラって女の子だったの?」
「うーん、そういえば・・・」
 思わず考え込んでしまった。
 考えたら確かに・・・・・・。
 そんなわけで二人して考え込んでしまった。

 と、そこに1年生の後輩の(いぬいさんが、階段からこちらに向かって走ってきた。
 彼女は乾 和己(いぬい かずみさん。演劇部の人間でもある。
「あっ、乾さん、おはよう」
 と私。
「あっ、おはよう」
 と上條君。でもって、はっとして乾さんはいう。
「あっ、おはようございますって・・・。
神崎せんぱーいっ!! 早く部室に来てくださいーっ!!! 脚本まだかーっ!!って速水先輩が乱心してますーっ!!」
「凄いことになってるようだねえ・・・・・・」
 のほほんと上條君はのたまった。
「うーん、そうだねえ・・・・・・」
 と私もつられて、のほほんとかます。
「・・・って、
そこでノンビリして、どーすんですっ!!! 演劇部を壊滅(かいめつさせる気ですかあ〜っ!!?」
   で、私達は乾さんにツッコまれる。
「か、壊滅って、アンタ・・・・・・」
 と上條君はちょっとコケる。で、私はいう。
「う〜ん、やっぱり。今回は相当追い詰められてるなあ」
「そーですよっ!! 演劇部の脚本担当の子が行方不明になっちゃってどうにも進まないんですっ!!
 おかげで速水先輩キレちゃいそうで大変なんですっ!!! ぜーはーっ!!」

 乾さんは苦しそうに息をしながら大声で主張した。
「脚本担当が行方不明って一体・・・・・・」
 と上條君。私も確かにそう思う。
「とっにっかっくっ!! 速水先輩がゴジラみたいに、すっさまじく暴れてるんですっ!!!」
 で、私は思わず大真面目に言う。
「乾さん。ゴジラって女の子だと思う?」

・・・・・・。

「知りませんっ!!!」
 ということで、乾さんに見事に怒られた・・・・・・。
「っていうか、しょ〜もないボケは後で死ぬ程やっていいですから、いい加減にはやく来て下さいっ!!」
 で、有無をいわせない迫力を持って彼女はのたまった。
こ〜いう彼女には逆らうと後がコワイ・・・・・・。
で、私はいう。
「そうだねえ・・・。まあ、一応の脚本は簡単だけど作ってきたんだし・・・・・・」
 と私はボソッといった。
 すると、彼女は少しだけほっとしたようにいう。
「あっ、どうもありがとうございます。とりあえずはゴジラも大人しくなります・・・・・・」
 って、おいおい乾さん・・・・・・。と、
「じゃあ、神崎先輩持っていきますね?」
 と彼女はいう。えっ、ちょっと乾さん?
「あー、はいはい」
 上條君は相変わらずの独特のほほんで、そう答える。
 えっ!? ちょっとちょっと!!?
「じゃあ、とっとと行きましょうっ!!!」

 ばびゅびゅーーーーーーーんっ!!!

「あーれーっ!!?」
 そんなわけで、私は乾さんに引きづられ、怒涛(どとうの勢いで演劇部の部室に強制連行されることとなったのである。
達者(たっしゃでなあ〜っ」 
 遠くで上條君の優しいのほほん声が聞こえてきた。
で、もって、残された上條君はというと・・・・・・。
「あれ? ついさっきまでここで猫又(ねこまたがいなかった?」
(※ 猫又は私の徒名(あだなである)
 そこにはテニスウェアを着たクラスメイトの柏木(かしわぎ君が来ていた。見ればわかる通り彼はテニス部である。
「ああ、いたけど?」
「いたけど・・・・・・?」
 と柏木君。で、上條君は真顔でいう。
「ゴジラを沈静化しにいったよ」
「はあっ!!?」
 柏木君は思わず上條君の顔をじ〜っと見てしまった・・・・・・。



プロローグ 2に続く



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