プロローグ その2演劇部の部室にて乾さんに引きづられて部室の前に到着である。 なんというか、妙に静まり返っているのが一寸ばかし事態の深刻さを物語っていた。 「・・・・・・。重症だな」 「ええ、先輩が来てくれなかったら、どうしようかと思いましたから」 ここに強引に連れてきたのは君だよ・・・と思いつつ彼女に言う。 「このまま教室に帰ったら困る?」 「先輩、演劇部を見捨てないでください・・・・・・」 ぎろろーんと乾さんは私を睨んだ。 「・・・・・・。わかっている。ちゃんと処方箋は持ってきたから」 「お願いしますね。場合によっては気絶させるぐらいはOKですから」 何気に恐ろしい事をいう人である。 「さて、どうしましょうかねえ」 がらがらがらがらーーーーーーっ!!! いっそのこと私は勢いよく部室のドアを開けた・・・・・・。 「って、なんだよ・・・・・・。これ・・・・・・」 で、私は声を少しばかり失った。無残に割られたカキワリ(演劇で使う背景が描かれている大きな板)が散らかってるわ、台本はバラバラに散らばっているわ、部員達は疲れきったような、それでも決して温和ではない空気がそこに満ちている。 おおよそ、健全な学園生活には相応しからぬ光景がそこに広がっていた。 「凄い状態だな・・・・・・」 恐らく元凶である者の近くに私は近寄る。 そいつは部室の椅子に少々だらしがなく腰掛け怒りと疲れを滲ませて、そこにいた。そこから発する気配は不機嫌の極みといわんばかりである。 そんなわけで、近寄る私を他の部員が心配そうに見守っていた。 制服のズボンもヨレヨレになりかけているわ、ブレザーも薄汚れているわ、オマケに手には擦傷と・・・、嫌でも暴れまわったんだろうということを忍ばせた。 と、彼女はいう。しかも大声で、 「おっそいぞっ!!!」 しかし、私はそれにまったくびびることもなくいい放つ。 「じゃあかしいいいいいいっ!!!!!」 あまりの声の大きさに部員一同が一気にひっくり返る。 何故なら私の手には拡声器が握られてたのである。つまりこれを当然使ったのに他ならない。 乾さんが脱力しながらツッコむ。 「か、神崎先輩・・・・・・。どこからそんなものをっ!?」 「軽音部から借りてきた」 私は至極当然にいう。 「いっ、いつのまに・・・・・・」 「ひそやかにやったのよ」 私があっさりいうと、乾さんをふくめ部員全員がかる〜くコケた。で、私は速水ちゃんに向き直るというのである。 「あんたねえ・・・・・・。昨日いきなり脚本書けやら、今日部員がいないから朝早く来いだわ、来たら来たで遅いって怒鳴るわ・・・・・・。なんなのよ?」 にこりともしないで私はいった。一気にその場の全員が息を飲んだ。 「おかげで、寝不足だわ、朝メシ食い逃すわ、朝の優雅な一時が台無しなんだからな・・・・・・.。覚悟はできてるんでしょうね? しかも私が心をこめて即興で作ったカキワリをこ〜んなにするなんてど〜いうつもり?」 で、少々全員が脱力した。と彼女ははっとして私を見る。 それはそうと彼女・・・つまり速水ちゃんは女の子なのだが、髪は短いわ、いつも制服はズボンを穿いているため、一見すると男の子にしか見えない。だから、ハタから見れば私が男の子を苛めているように見えるかもしれない。 「あっ、いや・・・・・・。ごめん・・・・・・。ちょと暴れちゃって」 多少、気不味そうに速水ちゃんはいう。 「まあ、いつか壊れるものだとは思うが・・・・・・。何せ、あのカキワリは予算をケチって無理矢理仕上げたものだし、今まで壊れなかったのが不思議だったぐらいだからいいんだけどな・・・・・・」 一応の温和さを持って私はいう。 「えっ、そうだったのっ!!?」 その場の空気にとりあえず剣呑なものはなくなっていた・・・・・・。 「まあ、どうして、ここには泥棒が入ったんですか?といわんばかりの状況になったのかはわからないが、簡単な脚本もどきは作ってきたぞ。とはいっても、君の昨日のゴジラの叫び声のような携帯での会話じゃあ、ナカナカどういうものを書けばいいのかわからんかったのだが・・・・・・」 私はワリと冷静に速水ちゃんに事実を伝える。 「えっ、ああ、すまない」 とりあえず、ここにいる速水ちゃんはいつもの速水ちゃんに戻ったようである・・・・・・。 「一応、ホントに基礎的なものだけはやってきたから。ただ、今回は詳しい事情もわからない状態で書いたわけだから、また書き直さざるを得ないがな」 で、私は、淡々と事務報告をする。 「ああ、すまない」 そういって彼女は髪をかきあげると姿勢を正した。 着ているものが男子生徒と変わらない姿と短い髪のおかげで、私は時々速水ちゃんが女だか男だかわからなくなる。ちなみに彼女がズボンを穿いているのは彼女がスカートが嫌いだからである。 それに、この飛翔綾学園の校則はちょっと変わっていて、女の子のズボンを許可しているのだ。 そんな事態は彼女にとっては有難いものなのだろう。何せ彼女はスカートが大嫌いなのだ。私も彼女ほどではないけれど、ズボン派なので確かに有難いと思う。 それはさておいて、速水ちゃんに私は脚本をプリントアウトしたものとFDを渡した。 「流石に仕事がはやいな」 「やらせたのは、お前だろうが・・・・・・。朝メシはとりあえず奢れよ。これのおかげで食い損ねたんだから」 私は有無をいわせない調子でいった。 「わかった・・・・・・。後で購買部でなんか買ってやる」 速水ちゃんは溜息を吐いた。しかし、こんくらいはやってもらわないと割があわない。 「牛乳も付けろよ」 で、更に注文を付け加える。 「わかった・・・・・・」 速水ちゃんはやれやれといわんばかりに頷いた。 と、私はくるっと部員の方に向いた。部員達が一瞬びくっとしたのは何故だろうと思いつつ、 「とりあえず大人しくなりましたけど?」 という。と、なんだかほっとした全員の姿があった。 「なんていうか、凄いですねえ・・・・・・」 と乾さん。で、ごくごく普通に彼女は私に聞く。 「もし、今ので大人しくならなかったら、どうするつもりでした?」 「これで速水ちゃんの頭を殴ってたんじゃない?」 当然の様に私は手にした拡声器を見せていう。 「おいおい、お前なあ・・・・・・」 流石に速水ちゃんがツッコミを入れる。だから、私はちょっとだけ意地悪く笑って更にいう。 「う〜ん、そうだね・・・・・・。この拡声器は借り物だし、やっぱマズいわな・・・・・・」 「って、あたしの心配はナシかいっ!!?」 速水ちゃんは抗議する。 「拡声器よりも君の方が頑丈そうだ」 私は真面目に断言した。 「おいおい」 こいつは〜〜〜っといわんげに速水ちゃんは私を見る。 そんなわけで演劇部の皆さんは私達を観察している・・・・・・。 「まあまあ、速水ちゃん。速水ちゃんはビルが潰れて下敷きになっても、地球が滅びても大丈夫なタイプじゃないか?」 私は更に断言する。 「って、おいおいーっ!? 私はゴジラかいっ!!?」 って、部員達はしっかりと頷いていた。正直な部員達である。 「うん」 そういうわけで私も素直に頷いた。と速水ちゃんは、う〜〜〜んと考え込んだ。 「何考えているだ?」 で、速水ちゃんがいったセリフは、 「じゃあ、お前はキングギドラだっ!!」 「ええっ!?」 結構、妙なものだった。 しかし、こちらも部員一同頷いた。なんてこったい・・・・・・。 「ほう、君がゴジラで私はキングギドラか・・・・・・」 私は溜息を吐いた。 「それともモスラがいい?」 「いや、モスラだったらキングギドラでいい・・・・・・」 私にも好みはちゃんとあるのだ。 しかし、速水ちゃんも妙なやつである。でもって、乾さんがツッコミをいれる。 「二人とも、いい加減に漫才かましてないで、会議しましょうよ」 「おう、そうだな」 速水ちゃんは通常どおりの男装の美人になる。 「というわけで、神崎・・・?」 「なんだよ?」 「お前は脚本担当だからな」 「有無を言わせない気配だねえ・・・・・・?」 「当然」 少し意地の悪い笑みを浮かべて速水ちゃんはいう。 「・・・・・・。タダじゃやらんぞ?」 そういう私はあくまで偉そうにいった。無償で手伝いをするほど、私は素直ではない。 「わかっている」 その私の性格をそれなりに見抜いている彼女はなんでもないように答える。 「まあ、多少ぐらいなら付き合ってやるぞ?」 で、私はちょっとだけ“いい人”ぶったこともいう。 「そうでないと困る」 速水ちゃんはどこか無邪気に笑った。で、乾さんが更にいう。 「そりゃあ、速水先輩と対戦しても神崎先輩なら、まず死にませんからね」 乾さんは容赦ない。 「って、おいおい」 私は、この乾さんも十分に速水ちゃんと対戦しても死なないですむキャラクターのひとりではなかろうかと思う。 でもって、それはともかく、私はいうのである。 「まあ、とりあえず、速水ちゃん。後で朝メシよろしくね」 速水ちゃんはガクッと力が抜けたようであった・・・・・・。 プロローグ 3に続く |