プロローグ その3

のどかな朝の教室

「って、お前はあ〜〜〜っ!!!」
 只今、朝のホームルームの少しばかり前の時間である。教室にはぞわぞわと生徒が集まってきている。
「何かマズイ事でもした?」
 呆れた顔をする人間を見て、私はしれっとハムのサンドイッチをほおばるのであった。
「朝っぱらから、よく食うな・・・・・・」
「というか、朝飯なんだよね。これは」
「・・・・・・。開き直ってるなあ」
 で、隣りの席に座っている友人の大嶋 祥子が呆れていう。
「お前にとっては、この時間は朝飯の時間と決まってるのか・・・・・・?」
「別に」
「もっと、余裕持って朝飯食ってから学校に来いよ」
「今日、来たのは7:45ぐらいなんだけどね」
「って、随分早いなあ」
「だから、うちの母親起こして朝飯作ってもらうわけにもいかないし、頼んだって作ってくれるほど、母親は親切じゃないから仕方がないだろうが」
「って、そう淡々といわれても」
「うち、家族同士が仲悪いからねえ」
 そういって、私は牛乳を飲んだ。
「だけどさあ、お前、1リットルの牛乳は飲みすぎだと思うが・・・・・・」
「そう?」
 確かに彼女のいうとおり、私は1リットル入りの牛乳を飲んでいた。
「よく、そんなに飲めるなあ」
「いや、ホントは500ミリリットルが良かったんだけど、なくてさあ。かといって普通の200ミリリットルじゃあ足りないし、足りる分だけ買うと割高だから、まあ、ちょっと多いけど1リットル入りでいいやと思っただけだよ」
「そこで1リットル入り買うのが君らしいというか・・・・・・」
 彼女は呆れているが、知ったこっちゃない。別に彼女の好みに従う気はない。全くない。
「牛乳は健康にいいし問題はない」
「意外にカロリー高いぞ、牛乳って・・・・・・」
「大丈夫、低脂肪乳だから」
「・・・・・・にしたって、飲みすぎだ」
「大嶋ちゃんて意外にこだわる人だったのね?」
「そーーーーいう問題じゃあない気がする・・・・・・」
「私にとってはそういう問題だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうキッパリいわれても・・・・・・」
「別に問題はないと思う。これで地球が滅びるわけじゃない」
「そんなことで地球が滅びてどーするっ」
 なんだか彼女は脱力している。で、ふと考えて私はいう。
「それはそれで面白い気はする。私が1リットル入りの牛乳を飲む事によって世界が滅びるなら、是非その因果関係を調べたいものだよ」
「調べる前にお前も死んでいると思うぞ」
「私ひとりだけ生き残っているっていうのも捨てがたいなあ」
 すでに大嶋ちゃんは脱力する。で、とても呆れたようにのたまう。
「あたしはひとりぼっちでは生きていきたくないよ」
「まあ、どうでもいいけど」
「って、随分あっさりいうなあ・・・・・・」
 どこか意外そうに彼女はいう。で、私はしれっとしていう。
「こんな下らないことを延々と話していて楽しい?」
「・・・・・・」
   彼女はなんともいえない顔をした。
「ったく、優雅な朝食の時間に茶々入れられたら多少フキゲンになると思うけど?」
「お前なあ。そもそも、ここでメシ食っているほうが間違いなんじゃないか?」
「別に、そんなことはないんじゃない? 校則で禁止されてるわけじゃない」
「お前は校則で禁止されてなければ何をしてもいいっていうわけか?」
「別に? 受忍限度を越えてなければいいとは思うけど?」
「お前、この世は私の為にあるっていう考えで生きてるだろう・・・・・・?」
「・・・・・・。もし、そんな発想だけで生きていたら、もっと傲慢に私は生きれた気もする」
「・・・・・・。想像したくない」
「しなきゃいいでしょーが・・・・・・」
「そうなんだけどね・・・・・・」

 もはや、脱力しまくっている大嶋ちゃんである。
「文句が多い奴だなあ」
 そういうと彼女は、
「お前だけにはいわれたくないっ」
 という。
「じゃあ、いってやろうっと♪」
 私がいうと彼女は、はああっと大袈裟な溜息を吐いた。
 で、更に私はいう。
「なんていうか、相変わらずよくわからん奴だなあ」
「お前にいわれたくない〜〜〜っ!!!」
 彼女は思いっきり抗議をした。
「そこまで大声でいわなくてもいい気はするぞ。う〜〜〜ん、これが思春期という奴ですかねえ」
「そんな強引な・・・・・・」
「ホントに大嶋ちゃんて、あーいえばこーいう、こーいえばあーいうの人だなあ。素直な私は大変だ」
「お前なあ・・・・・・。お前の素直さって世間の素直さとはちょっと・・・というか絶対何かズレテいるぞ・・・・・・」
「そんなに世間に合わせて何が楽しいんだか。まあ、世間が私に合わせてくれたら別に問題はないんだけど・・・・・・」
「そんな世の中になったら私は生きていたくないよ」
 ふふんとして彼女はいう。
「じゃあ、そういうことで」
 というわけで、私はあっさり切りあげた。
「なんていうか、お前ってやっぱりB型だなあ」
 確かに私はB型である。
「妙な感嘆してもらっても困るんだけど?」
「お前、人に合わせるっていう発想ないだろう?」
 大嶋ちゃんはいう。
「いや、ある。残念ながら」
「ざ、残念ながらって・・・・・・」
「・・・・・・? 連用修飾語だと思うけど?」
「いや、そうじゃなくて・・・・・・」
「えっ? 違うの? 何だったけ・・・・・・?」
「・・・・・・。いや、そうなんだけど。ど〜してそうなるかなあ?」
「なんていうか、大嶋ちゃんて、よくそ〜いう脱力したような呆れたような顔をよくするけど飽きない?」
「誰のせーだよ・・・・・・」
「う〜ん、大嶋ちゃん」
「お前はあ〜〜〜っ!!!??」
   で、何やら憤慨している大嶋ちゃんを見て私はいう。
「ひょっとして、さっきの大嶋ちゃんのツッコミって、どうして『残念ながら』っていう言葉が出てくるのっていう意味?」
「そうだよ、まったく・・・・・・」
「なんだ・・・。そうなら初めからそういえばいいのに。大嶋ちゃんて素直じゃないなあ・・・・・・。どうあつかっていいか、イマイチわからないよ」
「それはあたしのセリフだ」
「セリフに所有権はない」
「あのねえ・・・・・・。って、ところで、さっきのセリフだとお前人に合わせることがたまにはあるってことだよね?」
「たまにかどうかは別として、気紛れで人に合わせることはあるけど?」
「じゃあ、最近どういうことをしたんだよ?」
「人のプライベートにツッコミ入れて何が楽しいんだか・・・。まあ、いいけど・・・・・・。とりあえず、頼まれたから演劇部の脚本を書くことにしたけど?」
「って、お前、確か演劇部ではなかったよな・・・・・・?」
「そうだよ」
「確かに、君にしては人に合わせてる・・・・・・」
 彼女は妙に納得した顔をした。
「もっとも、頂くものはキッチリ頂きますけど」
「そこらへんが君だね・・・・・・。というか、それはそうなると、あまり人に合わせてるとはいえないぞ」
「何をいっている? 本当に純粋に人に合わせることができないというなら、こういうことですら、できないはずだ」
「そう、偉そうにいってどーする・・・・・・」
 大嶋ちゃんは、またズッコける。
「何をいってる? 自分の意見に自信を持つのは大事な事だ。それに私はそれほど偉そうにいってるつもりはないが・・・・・・」
「いってる・・・・・・」
 彼女は力なく抗議した。
「大嶋ちゃんて変な奴・・・・・・」
「お前だけにはいわれたくないっ!!!」
「じゃあ、いってやる〜っ!!」

 すでに子供の喧嘩であった。といってもそんな派手にやっているものではないが・・・。

「祥子ちゃ〜ん(大嶋ちゃんのコト)、えっちゃ〜ん(私のコト)、ど〜したの〜?」

 そこに来たのは、可愛い女子高生な工藤ちゃん(工藤 茜)&沢さん(沢木 美帆)だったりする。
「いや、大嶋ちゃんが妙に自分のコダワリをぶつけてきたから応戦してるの。ついでに朝飯中でもあるんだけど」
 と私がいうと、大嶋ちゃんは、ガクッとして、
「お前なあ、ど〜してそうマイペースなんだか・・・・・・」
 といった。で、工藤ちゃんはいう。
「う〜ん、えっちゃんもカナリのコダワリがある人だからねえ・・・・・・」
「う〜ん、じゃあ、私以上にコダワリのある大嶋ちゃんとは対立する運命にあるのかもなあ」
 私は素直に工藤ちゃんにいう。で、工藤ちゃんはやんわり答える。
「そうだねえ」
 大嶋ちゃんはマスマス脱力した。
「・・・・・・。あたしはそんなコダワリがあるほうじゃないと思うんだけど」
「いや、あるね」
「う〜ん、あるね」
 私と工藤ちゃんは反論する。で、それを見ていた沢さんが、
「あ、あの〜・・・、確かに祥子ちゃんはコダワリがあるとは思うけど、この場合、何かちがうと思うんだけど・・・・・・」
 という。で、大嶋ちゃん、
「沢さ〜ん、あなたなら、わかってくれるって信じていたわ〜〜〜っ」
 で、そしてパタパタと沢さんにかる〜く抱きついた。
「お〜、よしよし」
 で、冷静に対応する沢さんであった。
「なんか、祥子ちゃん、喜んでいるねえ〜」
 と工藤ちゃんはいう。だから、私もいうのだ。
「喜んでるね〜。っていうかいいねえ。なんていうか大嶋ちゃんて、いいところばかり取ってて・・・・・・」
「おいおい、えっちゃん・・・。じゃあ、あたしがだっこしてあげる〜」
「わーい」
 そんなワケで私は私で、かる〜く工藤ちゃんに抱きついた。
勿論、遊びというかふざけてである。私らは別にレズではない。

  で、しばらくして・・・・・・
「あの〜,君たち・・・・・・。仲がいいのはわかったから、はやく席につこうねえ〜」
 その声は担任の小野寺先生であった。どうやら、ホームルームの時間が始まってしまったらしい。彼は教壇から私らを見ていた・・・。
「朝っぱらから、そんな激しいものを先生は見るとは思わなかったよ・・・・・・」
 彼は思いっきり苦笑していう。しかし、小野寺先生は、結構美形なものだから、そ〜いう顔でもサマになってしまって楽しかったりする。
「いや、でも、別にえっちなことをしてるわけじゃあないと思うけど?」
 工藤ちゃんにくっついたまんま私はあっさりいった。
どんがらがっしゃんっ!!! 
 小野寺先生は見事にコケた・・・・・・。
「朝っぱらから、なんてことをいうのよ、この子は・・・・・・」
「・・・・・・? 夜ならOK?」
「ヤバイでしょ・・・。学校じゃあ・・・・・・。というか君達まだ早いぞ・・・・・・」
 おいおい注意の方向違ってきてるでしょ、先生。
「・・・・・・。たく、君達羨ましすぎ・・・・・・」
 っていうか、なんつーこというんだ、この先生は・・・・・・。
「いいでしょ〜?」
 で工藤ちゃんがいった。もうみんな脱力である。
「俺の教育って何か間違っていたのかな・・・・・・?」
困ったように小野寺先生はいう。ちなみに小野寺先生の担当は数学である。
「先生、それはない・・・・・・」
 と、クラスメイトの松原君が立ち上がって、慰めるように小野寺先生の肩をぽんと軽く叩いた。で、松原君いわく、
「あいつらが一寸変わっているだけです・・・・・・」
「こら〜っ!!!松原〜っ!!」
 と大嶋ちゃん。うわっという感じで松原君はびくっとする。
「でも、いいよなあ・・・・・・。俺がこ〜いうノリで女の子に抱きついたら問題だし」
 おいおい、松原君・・・・・・。
「じゃあ、彼女作っちゃえっ!!」
 私はスコーンといってしまう。松原君はガーンとした顔をする。で、
「って、おいっ!? それができたら苦労しないつーのっ!!!」
 どうやら痛恨の一言だったらしい・・・・・・。
「どうせ、俺には彼女がいないよ〜だ・・・・・・」
 で、いじけてしまった・・・・・・。
「えっちゃ〜ん、ちょっと今のは・・・・・・」
「大丈夫だよ。松原君は可愛いから彼女の1匹や2匹できるって」
 工藤ちゃんに対して私はあっさりいった。ちなみに、いつまでも抱き合っているわけにはいかないので、私らはそれぞれ腕をほどいた。
「お前ねえ、もう一寸いいフォローはない・・・?」
 松原君はちょっと抗議するようにいう。だから、私はほんの少しだけ考えた。
「・・・・・・。ないね」
 松原君は容赦なく脱力した・。
「先生・・・・・・。俺、こいつらに苛められてる・・・・・・」
「よしよし、先生も同じ立場だ・・・・・・」
 って、おいおい、二人とも。
「先生。俺、先生に付いていきますっ!!」
「松原君、君だけだっ。俺の事をわかってくれるのはっ!!」

 って、凄いノリである。でもって、
「せんせーいっ!!!」
「松原くーんっ!!!」

 がしいっ!!!、と二人は抱き合った。なんていうかホントに凄いノリである。もう誰も何もいえない。いや、いえない・・・・・・。
「なんか凄いコトになちゃったね〜」
 と大嶋ちゃん。おいおい原因は君だろっ。
  「いいでない・・・・・・? 平和で・・・・・・?」
「へ、平和なのかな・・・・・・?」
 工藤ちゃんに対し、沢さんはそう答えた。で、私はというと、
「あぎゃあああっ!!!??」
 である。ものの見事に狼狽してしまった。
それを見て、小野寺先生はフフンとして笑う。
「おや、ちょっとコレは刺激が強かった?」
 おいおい、小野寺先生・・・・・・。で、ぶんぶんと私は横に首をふった。
「そんな顔をして、叫び声あげて、何をかましてるのかな・・・・・・?」
 で、ちょっと意地悪そうに小野寺先生はいう。なんというか、この先生、教育者としてはちょっと問題があるかもしれない。
「そんな・・・・・・。そんなこといったって・・・・・・」
 しかし、今度は私の方が困ってしまう番だった。してやったりといった顔をする小野寺先生と松原君である。でも、とりあえず、もうそろそろ抱き合うのはやめてほしい気もしないでもない。
大嶋ちゃんも今度は笑っている。私の反応がどうやら何故か楽しいらしい。
「してやったり・・・・・・って感じだな」
 松原君もふふんとしていう。
「ふふっふ〜、そう感嘆に教師の威厳を墜落させるわけにはいかないよ?」
 とちょっと小野寺先生は笑っていう。で、私は溜息を吐いた。
「なんか、勘違いをしたようなので、いうんだけど?」
「なんだ?」
 と小野寺先生。もう、大人の余裕っていう感じである。で、私はいう。
「さっき、私が叫んだのは、別に刺激が強かったからじゃないよ」
「随分、君も強がりをいう子だねえ・・・?」
 もう、小野寺先生は余裕シャクシャクである。が、私はきっぱりいう。
「折角のシャッターチャンスで、カメラも持っていたのに、撮れなかったんですよーっ!!?」

「えっ!!?」

 小野寺先生と松原君の動きが止まった・・・・・・。私は大真面目にいう。

「ここで今カメラを出してたならレアな写真が撮れるチャンスだったのにっ!!! どうして、するならするで予告してくれないんですかあ〜っ!??」
 ・・・・・・。
ちゅどど〜〜〜〜んっ!!!
 クラス中が見事に撃沈した・・・・・・。
 当然、小野寺先生の大人の余裕なんてものは木っ端微塵に遙遠くにぶっ飛んでしまったのであった。教育者の威厳は丸潰れ・・・・・・である・・・・・・。

ちなみにあまりの騒ぎに、となりのクラスの担任でもある前田先生が駆けつけて、このクラスの状況を見て声を若干失いつつも、小野寺先生に事の次第をきいたのだった。
 が、当然、すぐには小野寺先生は答えられずに困ってしまったのである・・・・・・。

しかし、まあ、平和な学園の朝であった・・・・・・。(本当かよっ!?)




というわけで、いつもの様に時は流れるのである・・・・・・。
プロローグ終了


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