U.GREEN WING
       − 1 .記憶 <Part1>− 

 もう夜更けではある、だからといって、街が静かだとは決まってはいない。
 リールという街がある。ついさっきまでいた国、つまり、サイフィラエールに近いといえば近い街だ。
 それほど大きくない街たが、サイフィラエールに近いこともあり、それなりに発展しているらしい。
 以前シュウと来た時よりも都市化が進んだらしく、どことなくまた忙しくなっていた。
 そんな気に留めている街でもないけれど、しばらく来ていなかったから、懐かしいといえば懐かしい気はした。

 とりあえず、この街のとあるホテルのツインルームを取って、私は、今はただベットの上で寝そべっていた。今日はシングルルームがすべて満室だったのだ。
 ツインルームだからといえばそうなのかもしれないが、1人でいるには、全体に淡い色で整えられたこの部屋は少々広すぎた。
 シンプルだが、品のいい調度品で飾られた室内が、今の私には、どうにも落ち着かない。

 意外なぐらい、シュウと一緒にいることに慣れすぎていていたことに今更気付いた。
 そこに、シュウがいないだけで、この部屋といわず、どこもかしこも、私の感じる世界が、えらく歪んで虚ろだった。
 いや、シュウが、ここにいないだけだったら、こんなことにはならない。

 シュウは、ここにいないのではなく、この世にいないのだ。

 シュウがこの世にいないという、ただひとつの事実、けれども絶対的な事実が、揺るぎなく存在する。
 そして、その事実を素直には受け入れない私は、わかっているはずなのに、シュウの姿をいつの間にか探していた。彼の死様を、それこそ目が焼きついてしまうのではないかと思うほどに見たはずなのに…。

  「サイフィラエールか……」

 白いレースのカーテンが飾る大きな窓からは、つい最近までシュウと暮らしていた場所が意外なほどよく見えた。
 サイフィラエールという研究都市でもある国が、私とシュウが住んでいた場所だった。
 学問・研究の都ともいわれて久しい国…。
 何せ、この国を収める王族どころか、国民のほとんどが、科学者やら魔学者やら研究者とやらの国なのだ。他の国と比べると少々特殊かもしれない。
 そんな国に私とシュウは住んでいたのだ。そして、本来なら、そのうち帰ってきて、私もシュウも、科学者として、魔学者として、再び研究三昧の日々に戻るはずの国だった。
 そんなことを今更思う…。
 
 が、もう現実は、そんなことはない。
 その国の小さな家の地下で、今は、シュウがひとり眠っているのだ・・・・・・。

 私はサングラスをサイドテーブルの上に半ば放り出すように置くと、壁に掛けてあった鏡を見た。
 相変らず私の目はBLUE SKY(ブルースカイ)だった。
 何度見ても、蒼く澄んだ瞳は、なんだか自分の物には見えない。
 自分ではない自分が、いるようで落ち着かない。
 アサトがいうには、私が誕生した時にも、この色の目をしていたというが、そうであっても、こんな色をした自分の姿なんて、私は見たこともなければ記憶にもない。
 違和感を感じる。同時に、今までの自分が酷く虚ろで、不確かなものになってしまったような気がした。

「シュウ・・・・・・」

 呼んだところで、彼が返事をするというわけではない。けれども、思わず呼んでしまう。
 彼が死んでしまって、ここにいるわけがないことぐらいは、わかっているはずなのに。
 もし、シュウが死んでいなかったら、もう1つのベットにシュウは寝転んで、今頃、何かを話してくれたのだろうか・・・・・・。

 恐らく、この旅行でいうはずだった何かを・・・・・・。

 だとしたら、彼は何をいうつもりだったんだろう・・・・・・。

 けれども、答えてくれる彼はいないのだ…。
 私をひとり残して、ひとりで死んでいった彼は、もうこの世にはいないのだ…。


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