2.嵐を呼ぶ、猫又と実質的部長!!? その1
カタカタカタ・・・・・・。
無言で私はパソコンの前でキーボードを叩いていてた。
「・・・・・・。それから・・・・・・、で・・・・・・、・・・・・・」
ブツブツと独り言を言いながらキーボードを叩いているので、ちょっと不気味でかもしれない。
「頑張っているな・・・・・・」
速水ちゃんが話し掛けても、全くそれは眼中になく、私はただひたすらに脚本作成である。
そこには、たとえ実質的部長の速水ちゃんでも入り込めないものがあった。
ここは、演劇部の部室である。
そして、私はそこにあるパソコンで脚本の内容を作成していた。
でもって、速水ちゃんはというと、私にコキ使われている・・・・・・。(爆)
その一方で、私は別の事を考えていた。
部長と脚本係、いや、元部長と元脚本係のことである・・・・・・。
なんのつもりかは知らないが、やることがどうにも喧嘩を売っているやつだと思えた。まあ、悪意がなければ、こんな“馬鹿なこと”はしないのだろうが・・・・・・。
とにかく、元部長と元脚本係が駆け落ちというのは、ともかくとして、脚本のデータを持っていくという神経は許せるものではない。
あれから、部員達に一応聞いて、多少のことは知った。つまり、この演劇部が大騒ぎになった原因の多少は詳しい内容である。が、やっぱり、腹立たしいものだった。
要はこういうことである。
ある日の放課後、この演劇部の部室に来ると、
『この演劇部から退部して、部長と新しい演劇部をやっていく、そして、この演劇部にある脚本およびデータは部長&脚本係の管理しているものだから、こちらが持っていく。』
というような一方的な内容を宣言した脚本係の置手紙があり、そして、脚本のデータやらなんやらがすべてなくなっていたのだ。
そして、脚本係と部長はこの学園から消えていたのだ。で、それからというものの、この二人の姿は見えないらしい・・・・・・ということである。
・・・・・・。なんというか、聞けば聞くほど無茶苦茶だった。
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・・・・・」
まあ、それはそれとして脚本が何もないというのは、どうにも進まないので、私はこうやって書いているわけである。で、
「下手に声掛けると怒鳴るんだよな・・・・・・」
速水ちゃんはブツクサといっている。が、そうである。こういう何かを作っている時に声を掛けられたりして、邪魔されることをカナリ私は嫌うのだ。でもって、私はすくっと立ち上がった。
「おっ、やっと休憩・・・?」
彼女は机の上にノンビリと座って、こちらを見た。
「・・・・・・。この前の劇の脚本の第2部まで改良完成したよ」
で、私は、ふふんと笑った。
「オッ、お疲れさん」
「ところで、速水ちゃん」
私はこの部室に彼女とふたりしかいないこともあって聞いてみる。
「元部長と元脚本係のことだけどさ・・・・・・」
「・・・・・・。どうした?」
ぴくりと彼女は眉を動かした。
「とりあえず、顧問の先生とか学校の方に訴えることはしないの?」
疑問に思ったことを私はとりあえずいってみる。
「したいのはヤマヤマだな」
途端に彼女の顔付きが変わった。私は更にいう。
「なのにしないのか?」
「そもそも、顧問って誰だ?という気がする」
「おいっ!!?」
私の力があっさり抜けた・・・・・・。
「多分いるはずだとは思うんだけどな」
「おいおい。それって何だよ」
「いや、少なくとも、あたしは一度も会ったことはないぞ。いるのかどうかわからないしな」
さも当然というように彼女はいう。
「いるだろう、多分・・・・・・」
「というか、先生が怖がって来ないという噂もあるぞ」
「な、なるほど」
これには思わず納得した。確かに、この演劇部じゃあ、そうかもしれない。(爆)
何せこの演劇部は、別名“暴走演劇部”やら“飛翔綾学園暴走集団”なんぞという異名を持つような、よくも悪くも枠にはまらない演劇部なのだ。
が、速見ちゃんは反論した。
「でも、そもそも、運動部以外って、顧問の先生ってなかなか姿を現さないものだろう?」
「まあ、確かに」
そういえば、意外と顧問の先生とやらには会う機会はない。
でも、一度も会ったことはないというのは、結構レアな気もする…。
「しかし、でも、こんなこと黙っているのって不味くないか?」
私は彼女に再びいう。正直いって、こんなハタ迷惑なことをする輩を野放しにするのは腹立たしかった。
「・・・・・・。しいていうなら、こんなことだから、黙らざるを得ないんだ」
と、ふと彼女の目が若干鋭くなった。私は思わず彼女を見る。
「えっ!?」
「下手にこんなことを大っぴらにしてみろ。こんな問題を起こす演劇部なんて廃部だ…なんてことになるぞ」
はっとした。確かに、そんな下らない問題を起こすどうしょもない部活なんぞ
マズイと思われるものだ。そうなったら、下手したら廃部の可能性だってないとはいえない。
「なるほど」
「だろう? だから、そんなことをしたら、たとえ、この二人と罰することができても、この演劇部がなくなってしまう可能性があるからな。折角、形になってきた演劇部をこの二人のために、あたしは壊したくないよ。悔しいがね…」
彼女は皮肉な表情を浮かべ、それでも真面目にいう。で、
「でも、ここまで、好き勝手やって大暴れしているこの演劇部なら、こんくらいのことでは大丈夫な気もするんだが」
スコーンと私は彼女にいった。
「ひっでえ〜っ!!?」
速水ちゃんはがくっとした。だから、更に私は冷静にいう。
「だって、いっちゃ悪いが、既にこんなこと以上な問題を起こして大暴れしているのにもかかわらず、野放しにされている気がするぞ、この演劇部って……」
「おいこら」
で、速水ちゃんにいう。
「今更、何かましとるんだ、コイツはっ!!…と正直いって思ったぞ」
「おいおい……」
「多分、全校生徒が私と同意見だと思う」
私はキッパリという。
「お前って、本当に容赦ないな……」
速水ちゃんは更にげんなりとして脱力した。
「まあ、それはさておき……、神崎。この学園では演劇部って、ここだけじゃないだろう?」
と、気を取り直して速水ちゃんはいった。
「……。そうだな……」
でもって、彼女のいわんとしていることを、ちょっとだけ私は悟った。
「そうだな、“他の演劇部”に弱味を見せることもない……ということか」
「そーいうことだ」
彼女は軽い苦笑を浮かべた。
実いうと、この飛翔綾学園には演劇部が3つあるのだ。そして、この演劇部らは激しく対立しあっている者同士、つまり、お互い存続のために凌ぎを削るいろんな戦いを繰り広げるといったライバル関係なのだ。
しかも、お互いに相容れない者同士だ。
そして、それぞれが自分以外の演劇部を邪魔だと考え、自分の演劇部を発展させたいと考えている。もっというなら、あわよくば、邪魔者は消してやれという思想なのだ。
だとしたら、当然、相手の失態は願ってもない格好のチャンスにもなってしまうのだ。
「なるほど。確かにこんな事、外部に知れたら、一気にここの演劇部を潰しにかかりそうな輩ばっかだしな」
容易に想像はついた。実言うと、他の演劇部は結構容赦ないというか、えげつなかったりするのだ。
「確実に潰そうとするぞ。他の演劇部からすれば、うちの演劇部は目障りなもので邪魔なわけだからな……」
速水ちゃんは更に裏打ちするようにいう。
「まあ、表面上は辛うじて、平和にしているけど、人の邪魔するよりは、自分達の演劇部の実力を純粋によくしようと考えられない輩が、この演劇部のライバルなわけだ」
「他の演劇部の活動内容は、この演劇部の失脚計画か…」
「……。かもしれないぞ。どちらも“打倒、演劇部速水組”なんていっているらしいからな」
速水ちゃんはアッサリいう。
「まあ、こちらはこちらで、やられたらやり返すがな。流石に……」
「そりゃそうでしょう」
やられたら、できれば相場の2倍ぐらいにして返すのが筋だと個人的に思う。
「でも、時々、先手攻撃で大ダメージ喰らわして再起不能にしてやりたい気もするけどね。だけど、正直いってそこまでやることもないかな?」
「ほう…?」
私は不敵そうな彼女を見る。
「こちらが暴走すれば、結果的に相手の動きを封じて、他の演劇部の影を薄くして、下手な手出しできないようにできるってことはわかっているからな」
「おいおい」
…。それはそれでタチが悪い……。
「“力”の差を見せ付けてやるっていうのは、最大の攻撃にして防御だぞ?」
で、速水ちゃんは当然のようにいう。
「君の演劇部の場合、一体どんな“力”なんだとツッコミいれたくなるのは気のせいだろうか……」
「何をいっている? 爆走するのが演劇部の力というものだ」
「一体、何に暴走するんだよ…」
若干、私は戦慄を感じた。
「部活動におけるすべてのことだ。みんなでそれぞれの力をフルに出しあって、いろんなことに暴走すれば、ちょっとやそっとの障害なんて大丈夫だ」
が、彼女は断言する。
「どちらかというと、障害が号泣しながら逃げていきそうだな…」
私は思いっきり素直にいった。
「…。お前、さっきから結構チャチャ入れてないか?」
で、速水ちゃんがツッコミを入れる。
「私は思ったことをいっただけだぞ」
「そうかあ?」
疑わしげに彼女は私を見た。…。意外と鋭い奴である……。(爆)
「しかし、他の演劇部はともかくとして、内部に敵というのはタチが悪いな…」
速水ちゃんはふと本音を漏らした。
「他の演劇部が同じことをしたのなら、容赦せずにできるのだけど…」
「なんだ? 元仲間には手加減してしまうってこと?」
私は皮肉っぽく彼女にいう。
私は元仲間の人間なんだろうがなんだろうが、
関係なく、許せないものは許せないと思うタイプなせいか、そんな風な態度になってしまう。
「それもあるけど…」
「じゃあ、何?」
「よりによって、脚本係が脚本やデータを持っていっても、別に部の約束事に反しているわけでもないんだからな…。仮にそうだとしても、所詮この部活内のトラブルでしかないのだしな……」
「何それ?」
私は彼女がいった言葉が一瞬理解できなかった。
「いや、この演劇部では、脚本の管理は脚本係にすべての権限があるんだ。だから、極端な話、その脚本係がその脚本をどうにでもできるのさ。もっとも今までそんなバカなことをした奴なんていなかったのだけど…」
それを聞いて嫌な予感がした。
「ちょっと待て、じゃあ何? あの脚本係は、自分に権限があることをいいことに、脚本とかデータを持っていったわけ?」
「御名答。部の決まりごとで、照らし合わせると彼女は何も問題なことはしていないということになる」
「こんなに、この演劇部が困っているという事態に陥れられたのに?」
「この演劇部に在籍している以上は、彼女は脚本係として権限を持つ。つまり、脚本やデータを持っていった時点では、脚本係の権限があるということになる。で、取るもの取ってから、彼女はこの演劇部をやめたわけだよ」
「…。随分と図々しい奴だな…」
「この前、そんなメールの内容が部長から届いたんだ」
……。演劇のほうに、その知能を使えといいたくなる部長である。
「流石にキレたぞ…」
彼女は悔しそうにいった。で、
「…。大丈夫。私も十分キレた」
私は淡々と告げた。
「そんな屁理屈で勝ったと思うのなら、甘いというものだ」
「か、神崎?」
あまりにも淡々と私がいったので、速水ちゃんは怪訝そうに私を見る。
「まず、そもそも、そんな計画の意思がある時点で、こいつらのいい分なんて棄却だと思うし。そっちがそっちでしょうもないことをかますなら、こっちはこっちで屁理屈固めて追い詰めるぞ。そっちがやってOKだけど、こっちは駄目だという理屈はないからな」
「そりゃそうだけど…」
「実質的部長のお許しも出たしな…」
「ええっ!!?」
「そっちが部活の決まりごとを過大解釈でくるなら、こっちは正統&過大解釈のダブル焙煎でいくぞ」
「お前、何をしようとしている?」
ちょっとギョッとしたように速水ちゃんはいう。
「痛い目にあわしてやろうと思っただけ、正当にね…」
私はふふんとする。
「ところで、その部長にメールの返事を出した?」
で、速水ちゃんに聞いてみる。
「いや、してないが…」
「う〜ん、少し、焦らしてやろうか?」
私はアッサリと彼女に告げた。
2.嵐を呼ぶ、猫又と実質的部長!!? その2に続く