2.嵐を呼ぶ、猫又と実質的部長!!? その3
ともかく、問題は、この“差し入れ”である……。
してくれるのは有難いし嬉しいものである。が、いかんせん量が多すぎる…。
「お前って作品の評判いいからな…。その結果だろう…」
感心したように速水ちゃんはその差し入れの山を見る。
「そうなの?」
「この前の劇もそうだぞ。お前の脚本評判いいんだってば。他の分野でも注目浴びているようだしな」
「一部マニアックにウケてるっていう感じがしないでもないが・・・・・・」
「・・・・・・? まあスキズキはあると思うけど、何気に有名だぞ」
「なんだそりゃ?」
更に速水ちゃんはいう。
「ちなみに、この前の文化祭でのファンレターとかアンケートにも、お前あてなのも結構あったぞ」
「そんなものあったのか・・・・・・。っていうか今知ったぞ」
初耳である。いったい誰がくれたんだ?
「お前、別に劇の評価のアンケート結果とか全然聞かなかっただろーが・・・・・・」
で、速水ちゃんは呆れていう。
「そうだったか…? まあ、私は舞台に出てたわけじゃないもの。まず来るとは思わないだろうが、普通は…」
「うーん、そうかもしれないが、あの時あたしが文芸部のお前を引っ張り込んで脚本書かしたっていうので注目されたし、それ以上にお前は文化祭を盛り上げるためにかなり暴れまわったから、見る奴は見ると思うぞ…」
で、速水ちゃんは反論する。
「うーん…。そんな暴れまわったっていうほど活躍はしていないと思うんだが…?」
当時を思い出しながら私はいう。
そんな暴れまわったといわれるほど何かをやった覚えはないと思う…。
「まあ、それはともかくとして…」
「おいこら」
で、速水ちゃんは私のいうことを軽く流して更に続ける。
「とりあえず、お前あてのものをど〜するかと聞いたら、『ダルイし勝手にしてくれ・・・』とかいったんで、こちらでも多少読ませてもらったぞ」
そういえば、確かにそんなことをいったかもしれないとふと思い直した。多分その時はヘロヘロ疲れて演劇部の部室の床に転がっていたと思う。その状態なら、彼女から何かいわれたとしても、記憶にないのは考えられることではある。
「まあ、こちらもいい脚本とか作りたかったからな。こういうものは参考になるから読ましてもらった。勿論読んでも大丈夫そうなものだけだけど…」
と淡々と速水ちゃんはいう。そして、今度は差し入れの中から、お好み焼きを取り出して食べ始めていた。
「あまりスポットライトが当らない脚本担当を見る人間もいたんだ・・・・・」
なんとなく嬉しい気もするが、ちょっと違和感はあった。
「まあ、本当にうちらの演劇部って、この前は話題を振りまいたからな。お前が注目されても不思議ではないよ」
当時を懐かしむように速水ちゃんはいう。
「まあ、日常的に演劇部は変な噂があるぐらいだし、それは当然だ」
私は即答でドキッパリ断言した。
「おいっ」
「それに、君がほとんど原因だろうが・・・・・・」
で、更に私はいう。ホントに、この速水ちゃんに関係する噂のetc・・・は、素晴らしいまでに多種多様多量なのだ。
そして、その彼女が爆走するため、結果的に彼女の属している演劇部の奇天烈な噂になっているのである。
ついでにいうと、元々、演劇部も爆走気味な集団である。そんなわけで、ふたつが見事に合わさって相乗効果になっているのだ。
が、速水ちゃんはいう。
「そんなことをいうなら、お前だって、人の事はいえないぞ。私や演劇部だけじゃなく、お前も容赦なく暴れているわけだしな」
「そうか? まあ、妙な噂が私にあるのは事実のようだけど…。ひっどいモノになると、私が“バイセクシャル”だっていう噂まであるしな・・・・・・」
誰が流したかは知らないけど、私にはそんな噂があるのだ。と、
「“バイ”ならいいだろうが・・・・・・。私は“女好き”だぞ」
大真面目に速水ちゃんはいった。どうやら上には上がいるようである。
「う〜ん、まあ、バイセクシャルの方がバランスがいいのかもな。男女問わず・・・ってことだし。男だけ女だけって考えるよりはいいかもしれない」
そんなわけで、彼女の意見を聞いて前向きに考えることにした。
「って、何か違う・・・・・・」
が、速水ちゃんは脱力する。
「ものは考えようだ」
そして、私は開き直って彼女にいう。でも、間違えてはいないはずだ。
「……。そりゃ、確かにそーだけど…」
で、速水ちゃんも納得はしてくれた。しかし、その表情は、何かが違ーうといいたげである…。まあ、そんなことはいいのだけど…。
「っていうか、速水ちゃん・・・。脱力しながら、私への差し入れを食べているってのは何か間違えてる気がするんだが・・・・・・」
私は素直に思ったことをいってみた。
「いや、今日の5時間目、体育があっただろう? それで腹が減っちゃってね」
彼女のいう事は一理あった。確かに体育のあった日、しかも午後に体育の授業がある日は特にやたらにお腹が減るのだ。
おまけに大量の差し入れ、しかも私が食べるには多すぎるものが無造作に置かれているのだ。そして、ここの演劇部は、部室内においてある(何処かにしまっていない)食料は勝手に食べていいという暗黙の了解事項があったりする。
彼女が食べないわけはない。(もっとも、それでも彼女はそれなりに遠慮したらしく、私が食べれない(嫌いな)食べ物を選んで食べたようである)
が、それにしたって彼女の食べた量は多めである。
彼女が食べているお好み焼きの他、彼女が既に食べ終えたものを見てみると結構食べたようだ。
「・・・・・・。タコ焼き、お好み焼き、焼きそばって・・・、随分食ってないか?」
「そうかあ? 他にも、キムチチャーハンやポテチも食ったし、アクエリアスとかも飲んだけどな」
そして、速水ちゃんは側に置いてあったビニル袋を掴むと、ガサガサ振ってみせる。どうやら中には食べ終わった後のパック類が詰めてあるようだ。
「どっちにしろ凄い量だぞ・・・・・・」
「そうか? 夕飯もあるから控えめにしておいたんだけどなあ・・・・・・」
「控えめって・・・・・・」
どこの世界に、こんなに食う高校生がいるんだ? これで控えめだというのなら、通常は一体どのくらい食べているのだろう? とてつもなく疑問である。
「だから、さっきもいったけど、今日は体育があっただろう? それで、異常に腹が減ったんだってばあ〜っ」
でもって、速水ちゃんは抗議する。
「…。まあ、別にいいけど。というか、腹は大丈夫なのか・・・・・・」
「このぐらい序の口だ」
至極当然に彼女は答えた。何というか、速水ちゃんのお腹はブラックホールなのか…?
「しかし、君がそれだけ食べたのにもかかわらず、この量ってのが問題だよなあ」
私は冷静に現状を把握する。
「多少は誰かにやる?」
普通の菓子類ならともかく生モノは、そんなに長く置いておけない。
「う〜ん、持ち帰るにしてもちょっと多すぎるしな…」
で、ふたりで相談しようとした時、ふと私はチラッとドアの外を見た。
「獲物み〜っけ♪」
私はニヤリと笑った。で、とてとてとドアから出て行く。
「・・・・・・?」
で、速水ちゃんは怪訝そうな顔をした。
「おっ、猫又。どうした? な〜んか妙に楽しそうだな・・・・・・。俺はテニス部で疲れるわ、腹も減っているというのに・・・・・・」
若干呆れた顔でそこにいたのは、クラスメイトでテニス部の柏木君であった。
「そう?」
「思いっきり楽しそうだぞ、って、お前・・・・・・。マサカ・・・・・・」
と、柏木君は大真面目な顔をしていう。
「進ちゃんの実験に使われてラリったのかあ〜っ!!?」
どげしっ!!!
「なんで、そ〜なるっ!!?」
「あっ、違うのか・・・。今日、進ちゃんが科学室の方でなんだか不可思議な実験していたから、てっきり、その犠牲になったのかと思ったぞ」
意外そうな顔をして柏木君はいう。
「おいおい、いくらなんだってそれはないだろ・・・」
ちなみに進ちゃんことクラスメイトでもある進藤 孝宏は科学部だったりする。で、よく熱心に科学室に入り浸り、謎の実験を繰り返していたりするのだ。
「・・・・・・。お前は、まだ経験していないから、そ〜いうことをいえるんだよ」
柏木君は非常に黄昏れた眼差しで遠くを見つめた。
「おいおい、どんな実験しているんだよ?」
なんだか柏木君の表情が大げさに見えて笑ってしまった。
「・・・・・・。猫又、大人には大人の事情ってものがあるんだ」
で、柏木君は大真面目にしょ〜もないことをいう。
「というか、君は未成年だろ〜が」
そして、私は律儀にツッコんだ。
「何をいってる? 一の位を四捨五入すれば、ハタチだぞ。大人だぞ〜っ」
が、更に柏木君はしょ〜もないことをいう。で、
「十の位を四捨五入すれば、0歳だぞ? まだまだ子供だぞ?」
私は私で対抗するのであった。(おい)
「ったく、これだよ・・・・・・」
「基本でしょう?」
「あ〜っ!? 開き直ったあっ!!」
「別に?」
ふふんと私は笑った。
そんなわけで、なんだかちょっとフキゲンそうに彼はいう。
「お前、性格悪いぞ・・・・・・」
「柏木君の方が私の2倍は悪いっ」
「じゃあ、お前は俺の4倍だっ」
「私の8倍」
「俺の16倍」
「私の32倍」
「お前なあ・・・・・・。64倍」
「君ねえ・・・・・・。128倍」
「・・・・・・。256倍・・・・・・」
「えっと〜・・・・・・。512倍・・・・・・」
って、私ら何をやっているんだ?
「・・・・・・。1024倍・・・・・・」
「・・・・・・。2048倍・・・・・・」
「・・・・・・。・・・っと4096倍・・・・・・」
「8192倍・・・・・・」
結構真面目に柏木君は考え始める。
「・・・・・・。16384倍・・・・・・」
「・・・・・・。・・・・・・。32768倍・・・・・・」
「って、なかなかやるな・・・・・・。猫又・・・。65536倍・・・・・・・」
「そ〜負けたくはないのっ、え〜と、131072倍・・・・・・」
「・・・・・・。262114倍だ・・・・・・」
「ええと〜・・・・・・。524288倍・・・・・・」
「というか、何でこ〜なるんだよ…。1048576倍」
というか合っているのか・・・・・・?
「じゃあ、何で続けるんだよ、柏木君・・・・・・。2097152倍」
「・・・・・・。なんか、ここまでくると・・・・・・。4194304倍」
「・・・・・・。じゃあ、私で終らせちゃうね、とりあえず、8388608倍で、要はこの跡2のN乗のエンドレスということで・・・・・・・」
「あっ、オワリなの?」
彼は意外そうな顔した。おいおい。
「だって、2のN乗をこれ以上続けても虚しいし・・・・・・」
「まあ、そうなんだけどな」
「おいおい」
で、柏木君はあっさりという。
「いや、だけど、今日はいつもより短いなあと思ったわけだ」
「いつもよりって・・・・・・」
ちょっと脱力してしまう。一体、いつの時のを基準にしているのだろう…?
でもまあ、前回やった時よりは確かに多少短かったかもしれない…。
しかし、なんで、コイツはしょ〜もないことで、こ〜偉そうなんだ・・・・・・。面白いからいいといえばいいのだけど、結構謎である。
「ところで、猫又。いきなり、演劇部の部室から出てきたから何だと思ったぞ・・・・・・」
ふと、柏木君は思い出したかのような口ぶりで私にいう。
「そう? 出るぞ〜とかいってから出てきたほうがいい?」
で、私は私でそれに対応(!?)する。
「…。安全対策にはいいかもしれないが、それはそれでなんだかしょ〜もないなあ…」
「そうか? じゃあ、どうしよう…?」
と、妙な話になったなあと考えていると、
「というか、演劇部も練習はキチンとやらないといけないぞ、猫又っ」
柏木君は何故か突然教え諭すようなことをいった。何故コヤツは妙なタイミングでお兄さんぶるのだろう? 結構謎である…。が、それはそうとして、会話は続く。
でもって…、
「御言葉ですが、柏木君。私、演劇部じゃないんだけど」
「えっ!!?」
彼は驚いたように私を見た。
「あれ、柏木君もそう思った? 私、演劇部ではないんだよ。脚本係と美術係はやってたりするけど・・・・・・」
「それは、もう事実上部員だろ〜が・・・・・・」
柏木君はやや脱力してツッコミを入れた。
「そうともいう・・・・・・」
「ったく、これだよ・・・・・・」
でもまあ、そういうのも無理はないかもしれない。
が、とりあえずいいわけはいうのである。
「別に舞台には出てないし、あんまり元々演技力ないし、そもそも美術部や文芸部の方がヒマな時にやっているだけなんだけどね」
「・・・・・・のワリには、お前は速水さんと、爆走しまくって妙な演劇を作り上げてると思うんだが・・・・・・」
“妙な”は余計だと思いつつ私は答える。
「・・・・。面白いからやっているだけ、それに今回は因縁がらみだから、やってるわけだしね♪」
「ったく、これだよ・・・」
呆れたように柏木君はいう。
「って、因縁がらみっ!!?」
えっ!?と驚いた顔をして柏木君はこちらを凝視した。
「・・・・・・。ちょっと、演劇部の方で、いろいろあってね…。その打開策というわけで私は今回協力ってことになったのよ。で、その原因がねえ、私が多少キレるのに十分だったわけ」
ばきっ!!!
思わず側にある廊下の壁を殴ってしまった。思い出したら腹が立ったのだ。
「猫又…、公共物は大切にしろよ…」
至極冷静に柏木君は当たり前のことをいった。確かにそのとおりだ…。
そして、思った以上に痛みが拳に響いた。自業自得ではあるのだが、その痛みに耐えつつ私はいう。
「…。詳しくはいえないけど私は喧嘩売られちゃったよ」
「なんだ、そりゃ・・・・・・?」
柏木君はカナリ怪訝そうな顔をした。そりゃそうである。
いきなり廊下の壁を殴るわ、喧嘩売られたとかいってれば、怪訝そうにはなるだろう。
「まあ、わけがわからんだろうけど・・・・・・」
冷静に考えると、彼にわかってもらっても困るというものだ。
「別にいいけど、俺には関係ないし・・・・・・」
でもって、サラリと彼はいう。
「関係あったら、君を八つ裂きか焼き討ちにしてますってっ♪」
私はふふっと笑っていう。
「・・・。本当にいったい何があったんだか・・・。猫又、お前カナリ凶暴なこといってるぞ?」
一応はドライにいってた柏木君だが、げんなりした顔になった。で、
「それって、この前の放課後、速水さんが部室で大暴れしていた事と関係あるのか?」
そんなことをいわれ、思わず私は考える。見に覚えはなかったのだが、速水ちゃんが大暴れというのは十分ありえることである。
「・・・・・・。多分そうだと思う」
「・・・・・・? となると、猫又はその場にいなかったのか?」
意外そうに柏木君はいう。
「今日から、放課後には部室に行き始めたばっかだから、最近の様子ってのは特には知らないよ。だから私がいたとは考えにくいよ…」
私は素直に答えた。
「なるほど、お前はとりあえず平和に過ごしてたわけだ・・・・・・」
「えっ!?」
って、なんで、そこまで遠い目をするんだ、柏木君?
「凄かったぞ、あの演劇部の部員と速水さんの怒鳴り声は響くし、何かを破壊したような音は響くし・・・・・・、俺は暴動でも起きたのかと・・・・・・。あの演劇部は大暴れを時々するってのは知っていたんだけど、あれは酷すぎたな」
「どんなものだ、一体…」
まあ、多少は想像できるけど・・・。
「部長が速水さんだからなあ。ちょっと大人しいとはいえない演劇部だということはわかるんだけどね」
「ちなみに柏木君、速水ちゃんは部長ではないよ。実質的部長だけど・・・・・・」
「ど〜いう演劇部だ。ど〜いう・・・・・・」
「気持ちは嫌なくらいわかるよ」
「そ〜いう演劇部を手伝うお前が俺にはよくわからんけどな・・・・・・」
「私もそう思う」
「ったく、これだよ・・・・・・」
それについては、本気で反論できなかった。
「で、そうだ、柏木君」
「・・・・・・? どうした? いきなり話の流れが変わるっぽいセリフだなとは思うが・・・・・・」
「おいこら、妙なツッコミいれてどーするんだよ」
「っていうか、そうつもりだろう?」
まあ、そうである・・・・・・。
「まあ、反論できないので、そのまま話をかえるわけだけど・・・・・・」
「なんだ?」
「お菓子とかいる? あと、飲み物とかいろいろ・・・、普通の食べ物でもOKだけど?」
「はあっ!!?」
思いっきり彼は怪訝そうな顔をした。無理もない・・・・・・。
「ダメ?」
「いや、いいんだけど・・・。なんだ、そりゃ・・・・・・?」
「そのまんまだよ。勿論お金なんかいらないから」
「気前いいなあ」
ちょっと彼は意外そうな顔をした。で、私はいう。
「というか、好きなだけ持ってていいよ。速水ちゃんはすでに大量に食べたし、私もそんなに持ち帰れないし」
「なんだそりゃ?」
ますます怪訝そうな顔をする柏木君。
「まあ、こういうことだ♪」
と私はそういって、柏木君を部室に押し込んだ。
「えっ!? 猫又っ!!?」
と柏木君はなすがままに私に押され演劇部の部室に入っていった…。
「はいいぃっ!!?」
そして、大量に供えられたままの私への差し入れの山を見て、ものの見事に驚いた顔をみせ、思わず絶叫(!?)してしまったのであった。無理もない・・・・・・。
ちなみに、結局、差し入れの山は一部を除いて、テニス部等他の部活におすそ分けすることになった…。めでたしめでたし……である…。(多分)
というわけで、こうして演劇部は動き出す・・・・・・
2.嵐を呼ぶ、猫又と実質的部長!!? 終了
3.見える敵と見えない敵 その1に続く