4.マトモに演劇部活動!!? その1

只今、放課後。英語でいえば、AFTER SCHOOLである。
そして、只今ここの場所は演劇部の部室である。
で、何をやっているかといえば、とりあえず、“脚本の制作発表”というところだろうか・・・・・・。

「というわけで、猫又(ねこまた)の協力のもと、この前の文化祭でやった劇の台本が、バージョンアップしてここに復活しました!!」

 壇上(だんじょう)の速水ちゃんが高らかな声でそう告げると、部室は割れんばかりの拍手と黄色い歓声に包まれた・・・・・・。
 普通“脚本の制作発表”といっても、部活内のおとなしいもののはずである。
 が、ど〜いうわけか、この演劇部の“脚本の制作発表”は、何故か部員以外の人間も紛れ込んで、賑やかなことこの上ないこととなっていた……。
 ちなみに、この素晴らしいまでに喜んでいる連中は、演劇部のメンバーなのか速水ちゃんの親衛隊の皆さんなのかはイマイチわからない。
 が、とにかく、速水ちゃんを支持する者が多いようである。
 まあ、結構人数がいるので、なんだか壮観(そうかん)なのは間違いはない。

「とりあえず、速水ちゃんのいった通り、私は前回の劇の脚本を改良したものを仕上げたが、まだ、少々十分とはいえないところがあるかもしれない。
 が、今回、演劇部の練習をなるべく早く開始するべきだと思いスピード重視であえて仕上げたわけなので、そこのところは御了承いただきたい。
 勿論、問題がある場合は随時(ずいじ)改良できる点はしていこうと思う」
 で、同じく壇上の私がいうと、とりあえず、その場はなんやかんやと大喝采(だいかっさい)である。
 私と速水ちゃんがいる場所は、他のみんながいる場所よりも一段高いので、よく見渡せる。
 そして、現在、速水ちゃんとこの壇上の上にあがらされ、あっという間に脚本の説明補助をする羽目になってしまった私は、アガリ症なりに言葉を選び話していく。
 実をいえば、『何故人前に出て話をするのが苦手な私が、出なきゃいけないんだ?』という疑問を持つ前にここに立たされてしまったので、いうべき言葉もイマイチな状態である。
 そんなに大きい部室じゃないとはいえ、カナリ多くの人間がいるのだ。舞台度胸のない私には少々辛いものがあった。
 が、ともかく“脚本の制作発表”は続く、続く…。

「尚、新しい劇の脚本もなるべく早いうちに仕上げる予定なので、それまでは少なくとも各自この脚本の劇をまずは仕上げるようにっ!!!
 また、新しい脚本については、まだ書いている途中なので、『こうしたものを取り入れてほしい』という考えがあるものは、私か猫又に早めに伝えるように!!
 締め切りは5日後までだっ!!!」

 で、私はともかく、速水ちゃんが多少興奮したようにいう。
 どうやら念願の脚本ができたのが嬉しいらしい・・・・・・。

 と、こちらも興奮気味な演劇部の1人がいう。
「速水先輩っ!! 今度の新しい劇は何をやるんですかっ?」

「新しい劇は、とりあえずタイトルは特にまだ決めてないが、中世ヨーロッパをモチーフにしたイメージでやろうと考えてる・・・」
 答える速水ちゃんの言葉に、おおっと驚きのどよめきが走った。  というか、本当に凄いノリである。

それを見て速水ちゃんはにやりと(かす)かに笑う。
 そして、私に説明せよとばかりに、視線を向けた。

(まいったなあ…)

「今のところ、少し笑えるけれど、ちょっと切ないというような、健全なラブストーリーという路線で行こうと考えている・・・・・・」
 私は演劇部の面子を見ながら、言葉を告げる。

「今までの、この演劇部の路線とは少し違うかもしれないが、今までのやり方では他の演劇部には勝てないだろうから、勝負をかけることにしようと思う!! これに異議のあるものはいるか?」
 で、速水ちゃんは周りを見渡す。そこに反論するものは誰もいなかった。

 ちなみに、ちょっと詳しい説明をさせてもらうと、この飛翔綾学園(ひしょうりょうがくえん)・高等部には演劇部が大きく3つほどあり、それぞれが(しのぎ)ぎを削る戦いを繰り広げている。
 そして、いがみ合っているというわけではないが(ということには一応なっている)、激しい火花を散らす間柄である。
 そのため、毎年のように、演劇が発表される文化祭のときなんかは、派手な演劇合戦が見れたりするのだ。(だんだん演劇合戦だかなんだか、わからなくなっている気もしないでもないが)
 また、演劇部達の活動が活発なこともあり、『演劇祭』という今回のようなイベントまであったりするのである。
 まあ、要するに演劇発表会である。
 年に2回ほどあるのだが、最近は他校の演劇部まで巻き込んで、いつの間にやら賑やかなものになっていたりする。
 だが、結構面白いといえば面白いイベントであるが、えてして、こう盛り上がってしまうイベントならば、必然的に闘争心は燃えるのだ。
 そして、この飛翔綾学園の演劇部はとんでもなく燃えるのである。
 したがって、そのイベントを意識しだすこの時期、この学園の演劇部の連中は、結構騒がしくなり始めるのだ。そして、何気に演劇部でもない人間も注目し始めるのだ。
 もっとも、もう既にいらんことで騒ぎ出している気はするのが……。

 が、それはともかく、
「今回の演劇祭は前回の文化祭以上にいい劇を作ろうっ!!」
 実質的部長の速水ちゃんは、やっぱり燃えていた。
 そして、またもや、部室は割れんばかりの拍手と黄色い歓声に包まれる・・・・・・。
 というか、クドイようだが、本当にこの熱気は一体どこから来るのだ?
 オマケに、さっきから、この演劇部の部室の外からも人が『何事だ?』といわんばかりに増えて押し寄せている…。

「というわけで、お前もがんばるように」
 で、速水ちゃんは、私にイキナリ話を振った。

 って、おいおいっ。

 だから、私はいいかえすことにした。
「ちなみに、今回のバージョンアップした脚本、おそらく君がやる役は一番セリフが多いんで頑張るよ〜に」
そしてフフンと少しばかり笑った。そう速水ちゃんだけにいいカッコを独り占めさせたくないのだ。
どうやら、私は私で開き直ってきた気がする。
 速水ちゃんはガクッとした。
「お前は鬼か・・・・・・」
「いや、猫又だ」

 ・・・・・・。

「お前、私に恨みでもあるのか?」
 ちょっと恨めし気に速水ちゃんはいう。
「いや、全然」
 私はケラケラと笑った。で、まわりは脱力していた・・・・・・。

 「って、先輩、そこでまた漫才やってど〜するんですっ!!」
 と、この演劇部の会計係の(いぬい)さんがツッコミを入れた。もっともである。
 そんなわけで、脚本制作発表(!?)が終ると早速作業に移るのだ。
 ふう、やっと、この壇上から降りれる…。やれやれ…。
 私は、ほっと密かに息をついた。

 しばらくして…。
「脚本ができたのはいいけど、まだ問題はありますよ」
 と困ったような顔をして、玲香ちゃんが溜息を吐いた。
 ちなみに、玲香ちゃんは、この演劇部の美術係である。
 既にギャラリーの大半はこの部室からはいない。…というか、去ってもらっていたため、さっきよりは、結構静かである。
「例のうちの様子を探っている奴らの対処か…」
 で、速水ちゃんは苦笑した。
 が、玲香ちゃんはいう。
「いえ、それもあるんですけど…」
「えっ、何か大きな問題なんて他にあった?」
 速水ちゃんはキョトンとして彼女に聞いた。
 と、玲香ちゃんは、珍しく声を多少荒げた。 

「速水先輩っ!! カキワリぶっ壊しちゃったでしょうがっ!!?」

  ちゅっど〜んっ!!!

 ちなみに、カキワリとは背景の描いてある大きな板のことである。
「ああーっ!!?」 
 と、特に乾さんは一気に青ざめた・・・・・・。
 私はというと、
「そういや、速水ちゃん・・・。私が去年の文化祭で、材料費を頑張ってケチって描いたカキワリを派手に壊してくれたんだっけ・・・・・・」
 で、確かにそうだったと、やたらに静かにいう・・・。(プロローグ その2参照)

 ・・・・・・。

「さすがにシャレになりませんよ・・・・・・」
 会計係の乾さんの言葉は、とてつもなく重かった。
 とてつもなく・・・・・・。

「速水ちゃ〜ん」
 私は思わず、キローンと彼女を見た。
 で、速水ちゃんはバツが悪そうに私を見る。
「いやあ、ゴメン・・・・・・。ついつい・・・・・・」
「ゴメンで、ついついで、人が丹精(たんせい)込めて作ったカキワリ壊すなよ」
「これについては反論できないな・・・・・・」
「したら殺すよ?」
 と私、既に目が据わっている。
「・・・・・・。さすがに怒りますよ。神崎先輩だって・・・・・・」
 すでに呆れている乾さんである。
「確か、7枚一気に書き上げた力作だったし・・・・・・」
 と玲香ちゃん。
 そうである。 速水ちゃんが壊したカキワリは、前回の演劇の時に私が作った死力をつくして作ったカキワリなのだ。(私だけですべてをやったわけではないが)
 そして、そのカキワリを困ったことに速水ちゃんは、今回その全てを壊してしまったのだ。
 泣くに泣けやしない…。

「いや、薄くてカキワリだと思わなくてさ……」
 が、彼女がいうのは、まあわからないでもなかった。
 カキワリとしてはいくら補強したといっても、確かに薄っぺらくて、しかも模様が描いてない裏の部分は結構ぼろぼろなのだ。
 で、模様を保護するために、模様が見えないように置いておくと、はっきりいって廃材というか、ゴミ行きのものにすら見えなくもない。が、私は抗議する。
「予算が足りなくてケチって薄い板で作ったんだよお〜っ!!!」
 いくら何でも、折角人が必死で仕上げたカキワリをそんな壊されれば腹も立つ。
 それに、ゴミと間違えないように、ちゃんと、“カキワリ 取り扱い注意!!”とか書いた張り紙を一応はわかるように付けといたのだ。
 どうも、話によると、例の元部長&元脚本係の問題でイライラとしていて、速水ちゃんは思わずやってしまったらしいが、本当に泣けてくる。

ワザとじゃないことはわかるが、ワザとじゃないといって、すべてを許せる問題ではない。
「すいませんねえ・・・。演劇って結構お金が掛かるんです・・・・・・」
 昨年、低予算でカキワリを無理矢理作らせてしまった罪悪感からか、乾さんがすまなそうな顔をする。
「ところで、玲香ちゃん、カキワリって直せそう?」
 で、私はやたらに静かにいう。
「・・・・・・。ものによります」
 彼女は遠い目をして答えた。…。カナリ大変そうである…。
「…。というわけで、速水ちゃん」
 私はカナリ無理矢理な笑顔を作っていう。
「なっなんだよ」
 その笑顔にちょっとビビったのか、若干ギョッとして私を見る。
「…。お手伝いよろしく♪ 拒否権は認めないからね♪」

 ・・・・・・。

 速水ちゃんの顔は、ひ〜〜〜っという顔をしていた…。
 その時の私の顔は結構怖かったのかもしれない……。





    4.マトモに演劇部活動!!? その2に続く。



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