4.マトモに演劇部活動!!? その2
「そんなビビるな。男装の麗人というキャッチコピーが台無しだぞ、速水ちゃん?」
けらけらと私が笑うと、
「いや、お前って、時々カナリ怖いぞ」
と、非常に大真面目に速水ちゃんはいう。しかし、これではカリスマ演劇部長の肩書きが丸つぶれ、ブッつぶれだと思う。
「そうか?」
私はふふんと笑いながらちょっと考える。
どうやら、時々私は別にそんなつもりはないのだけど、自分の思っている以上に、相手を驚かせるらしい。
でも、速水ちゃん。そんな大真面目にいうこともないと思うぞ…。
「・・・・・・。神崎先輩、怒ると何気に怖いからなあ」
と怜香ちゃんがぼそっという。で、更に乾さん、
「なんていうか、やっぱり神崎先輩って、キングギドラだわ」
と妙な感心をする。おいこら、二人とも。
「じゃあ、とりあえず、現在はキングギドラがゴジラをびびらしているってところかな?」
で、更にちょっとズッコけるようなことを怜香ちゃんはいう。
彼女はふんわりしたイメージがあるのだが、時々、さらっと妙なことというか、なんだか説得力のあることをいって驚かせるのだ。
「う〜ん、そうだね。しかし、最近微妙に神崎先輩って速水先輩を影で操っている気が・・・。なんか、実質的に演劇部なんだよなあ。で、今に至るわけなんだよなあ…」
と乾さん。どうやら怜香ちゃんと同意見のようだ。
「な〜にをいってるのよ、君達?」
それを聞いて、私はくるっと二人がいるほうに振り返った。
その反動でポニーテールにしていた髪の毛が、私の顔を叩く。意外と勢いがよかったのか、密かにちょっと痛い。ついでに掛けていた眼鏡までちょっとずれる。
が、それはさて置いて…、
「別に速水ちゃんを操っているつもりはないぞ」
と軽く宣言をする。
「というか、結構、少なくとも速水先輩と張り合っていると思いますけど」
が、乾さんはあくまで冷静にかえした。
「冷静沈着にさらっといわんでくれ…」
「えっ、そうですか?」
乾さんはちょっと驚いた顔をする。が、絶対に、密かに笑っている。
「張り合っているというより、意地のぶつかり合いだよ。速水ちゃんは演劇部を背負って行く者の意地、私はどれだけ自分のイメージを形にできるかを極めようとする意地。何気に結構相反するものが、いつの間にかぶつかっているんだと思う」
で、私は振り返った瞬間に少々ずり落ちてきてしまった眼鏡を左手の小指であげつつ、反論する。眼鏡のズレは結構気になるのだ。
「実は仲悪そうですね」
と、これまた冷静に乾さんはもっともな事をいう。相変わらず、彼女は礼儀正しくパッキリと物事をいう人だ。そして、何気に容赦ない。
「そうかもしれない」
が、そういう私も否定はしない。確かに仲がいいといわれるわりに、私と速水ちゃんは、いろいろと争っているといえば争っているのだ。
だから、純粋な意味では仲がいいとはいえないのかもしれないのだ。
「お前、少しは否定しろよ」
で、おもいっきりゲンナリした顔で、速水ちゃんは私の頭をかる〜く叩いた。
恐らく、彼女のファンクラブの人間が見たら、泣いて喜びそうな仕種だろう。彼女だとこういう表情をしてもサマになってしまうのだ。
というか、ファンクラブの人間からしたら、私のポジションは垂涎モノなんだろうなあと、ふと思う。
そういう意味では、私は速水ちゃんの“ファン泣かせ”かもしれない。
と、それはそうとして…、
「いや、マジでそう思った」
私はやや爽やかにいう。
「ひでーっ」
「ワリとしょうもないことで、喧嘩(!?)する事はやたら多いしな」
私は思いっきりな事実をいう。
本当に私と彼女はしょ〜もない事で、周りからみると脱力仕立ての軽い喧嘩(!?)をしょっちゅうやっていることが多い。
例えば、ラーメンは味噌がいいか醤油がいいかで、この前も放課後に騒いでいたのだ。
(ちなみに私は味噌派、速水ちゃんは醤油派である)
他にも、猫と犬どちらが可愛いか(私:猫派,速水ちゃん:犬派)とか、フレンチドレッシングと中華ドレッシングのどちらがいいか(私:フレンチドレッシング派,速水ちゃん中華ドレッシング派)…等、きりがないほど、そう熱弁振るうことでもないことでガタガタお互いいいあうのだ。
で、大概一定時間(大体30分ぐらい〜1時間)を過ぎると、“まあ、人は人だよな”ということになって、アッサリ収まるのだけれど、まわりからすると、バカバカしいうえになんなんだ?という展開のしょ〜もないものである。
が、彼女は反論した。
「いや、まあそうなんだけど。でも、深刻な争いっていうのはあまりないだろう? 喧嘩つったってボケとツッコミのドツキ合いみたいなもんだし」
「…。まあな」
彼女がいうとおりである。喧嘩(?)といっても、確かにドツキ合いに似て、楽しいのだといえば楽しいし、何故か気がついたらやっているのだ。
「オマケに、他の人間だとやってくれないしな」
で、速水ちゃんはサラリという。
って、ちょっと待て。速水ちゃん。
「というか、他の人間で試したのかっ!!?」
「一通りな。お前ぐらいだぞ。張り合ってくれるのは…」
真面目に速水ちゃんはいう。
「試したんかいっ!!?」
「ほら、お前って、カナリ耐性あるしな」
「…。あのなあ」
気分は少々複雑である。少なくともいわれて、素直には喜べない。が、
「要は、喧嘩するほど仲がいいってことですね」
乾さんがさらっと結論をまとめた。
「そういうことだな」
で、速水ちゃんは頷いた。
「そういう結論でいいのか?」
私はなんというべきか、迷ってしまう。が、そんなことはお構いなしで、
「そういう友情もありだろう?」
速水ちゃんは、ちょっと不敵に笑った。
「…。とりあえず、君との友情というのは、やはり気力・体力の充実が不可決だと改めて悟ったよ」
あっさりと納得する彼女らを見て、私は溜息を軽く吐いた。
「おいこら」
と、速水ちゃん。
「友情とは奥が深いな…」
で、私はしみじみと遠くを見たのだった。
「いっていることはその通りですけど、神埼先輩、いい加減に軌道修正しましょう」
と、乾さんが呆れ果てて、それでも冷静にツッコミを入れた。
流石に、脱線が続きすぎたので、止めることにしたらしい。
「先輩達って、止めないとホント暴走しますからねえ…」
で、乾さんはいつものようにやれやれといった口調でいう。
まったくもって、その通りだ。否定の余地はない。
といっても、密かにその脱線を彼女自身も盛り上げてしまっている気もしないでもない。が、それはさて置いて…。
「まあね。でも、いつも乾さんのツッコミには助けられていると思うよ。私と速水ちゃんだけだと、おバカなボケかまし暴走になる可能性が非常に高いからな」
で、私は我ながらしょうもないことをいう。
「自覚は一応あるんですね…」
少々驚いたらしく、ちょっと意外そうな顔を乾さんはする。
何気にいい度胸である。
「お互い自覚あるけど、修正不可能なだけだよな」
で、速水ちゃんが致命的な墓穴を非常にあっさりという。
微妙に違う気もするが、開き直ったカリスマ演劇部長は強かった…。
「修復不可能ですか…」
冷静に乾さんは溜息を吐いた。
「自分でいってれば世話ないぞ」
と私。そして、怜香ちゃんはいう。
「というか、神崎先輩がいうのもど〜かと思いますけど…」
何気に容赦ない怜香ちゃんである…。で、乾さんも更にいう。
「つ〜か、その暴走を健全にマトモに演劇の方に使ってください」
が、それについては怜香ちゃんの方が、非常なまでに冷静だった。
「…。和己ちゃん(乾さんのこと)。この暴走っぷりを演劇に使うあたりで、“健全”とか“マトモ”っていう路線は遥か彼方にぶっ飛んでいるような気がするけど?」
「う〜ん…。確かに…」
乾さんは言葉に流石に詰まったようである。
というか、この二人は、私と速水ちゃんを何だと思っているのだ?
今更いうまでもないが、カナリこの二人は手強い後輩である…。
「でもまあ、爆走ぐらい使えるなら使うべきじゃないか?」
で、その恐るべき後輩に、更に恐るべき速水ちゃんがアッサリいう。
「は、速水ちゃん…」
流石、この演劇部の実質的部長である。
私は彼女の性格をそれなりには把握しているものの、ちょっと呆然とする。
「なあ、神崎?」
「って、私を巻き込むつもりかーっ!!?」
「というか、お前、すでに巻き込まれているだろう?」
不敵に、その原因である彼女はアッサリ私にいう。
反論不可…である。
「神崎先輩。それについては、とっとと諦めて覚悟を決めてください」
そして、乾さんは非常に温和そうに笑いながら、最後通告をする。
“拒否不可能”そんな空気がギッシリ満ちた。
「…。そうだな。巻き込んだ速水ちゃんが断言しているぐらいだしな…」
で、本日何度目かわからない脱力系な溜息を私は吐く。いや、吐かずにはいられない。
というか、速水ちゃんといい、乾さんといい、怜香ちゃんといい…。この演劇部の連中はやっぱり“いい性格”をしていると思う。
「…。まあ、いいけどね。別に私が舞台で演じるっていうわけじゃないしな」
が、ここまでくれば、実いえば、私も結構開き直ってきた。
「やってみたい?」
で、茶化すように速水ちゃんはいう。
「絶対、遠慮する」
すっぱりと私は断った。
「そりゃ、残念」
「そんなことしたら、命がいくつあっても足りないぞ」
私は昨年の文化祭のことをチラッと思い出しつつ、本気で心の底からそう思った。
「神崎先輩…。演劇に対して、物凄〜い偏見がありませんか?」
と怜香ちゃん。見れば、彼女の眼鏡の奥の瞳が、一瞬キラーンと光った気がした。
こういう時の彼女は、少々注意である。短くはない付き合いの経験が、それを告げた。
一体、何をやる気だよ……
が、それに怯む私ではない。
「少なくとも、この演劇部に関してはそう思う」
この演劇部に多少なりとも付き合いがあるせいか、根性もそれなりに付いているのだ。
「…。これには否定できませんけど、原因は、絶対に神崎先輩にもあると思うんだけどなぁ〜」
で、乾さんがジトーっと軽く睨みながらツッコミを入れる。しかも、“絶対”を強調したうえに、最後の方は軽いビブラード入りである。で、私はいう。
「気のせいだ」
「自覚症状ナシですか…」
とても、何かをいいたそうにじとーっと乾さんは、私を見る。
「自覚症状あったほうがいい?」
ふふんと私はいう。
「…。どちらにしろタチが悪い気が…」
「じゃあ、これからも微力ながらこの演劇部の暴走・爆走に貢献するということで、いいと思うんだけど?」
と、私の提案に対して、乾さんはちょっと考える。で、少々複雑そうに、
「神崎先輩…。“暴走・爆走”に貢献するって…。な、なんか表現方法が間違っているような気がするんですけど?」
「いや、“暴走・爆走”なくして、この演劇部は語れないでしょうが?」
「それいったら身もフタもありません…」
「でも、その“暴走・爆走”を“君達”は上手く利用するつもりでしょうが、多分ね…」
私がそういうと、ほんの一瞬だけ乾さんはピクッとした。
「…。御手柔らかに…」
で、彼女特有の何かたくらんでいそうな謎の笑みを浮かべた。
というか、やっぱり、乾さんは只者じゃないと思う。
そして、更にその様子を怜香ちゃんが、何やら模索するように見ている気がした。
「…。こちらこそ…」
流石に速水ちゃんの後輩なだけはある。
侮れないぞ、このコンビ…。
素直にそんなことを考える。で、私はふといってみる。
「それとも、みんなで軌道修正不可能レベルまで楽しく暴走・爆走した方がいい?」
「それは駄目っ!!」
途端に、乾さんと怜香ちゃんが、物凄い勢いで見事に息のあったタイミングで却下した。
「ドサクサに紛れて、おっそろしい事をいわないでくださいっ!!」
大真面目に怜香ちゃんはいう。
「つ〜か、それじゃあ、本末転倒ですっ!!!」
で、乾さんは若干ピキピキしながら、何だか下手をすると殴りかかりそうな勢いでいってくる。
が、速水ちゃんは軽くトドメを刺す。
「それはそれで、楽しそうな気もするぞ?」
「はっ、速水先ぱ〜いっ!!?」
またもや、二人の息のあったタイミングの叫びが部室中に響いた。
ちなみに、さっきから他の部員は呆然としていて、声も出ない。
「ということで、速水部長のお許しはでたぞ?」
で、ちょっと意地悪に乾さんにいってみる。
「神崎先輩っ!! この演劇部をテロ集団にする気ですか〜っ!!?」
というか、乾さん。テロ集団て……。
彼女も凄い表現をする人である。
「そんな大ゲサな…。それにそもそも演劇部が、テロ集団になってどーする…」
「とりあえず、前例のないことではあるな」
で、速水ちゃんは、その通りだというようにおおっと頷いた。
確かに、日本の一介の私立高校の演劇部が、テロ集団になった話なんて聞いたことはない。
というか、あってたまるかというものだ…。
「速水ちゃん、マサカやる気?」
「ちっがあーうっ!!」
が、流石にこればかりは速水ちゃんも否定した。
「あっ、でも、“演劇の中”で暴れるっていう意味なら、いいかもしれないぞ?」
そんな彼女を見て、ふと私は考える。
「…。お前、何やる気だよ」
速水ちゃんは、私をちょっと怪訝そうに見た。
「革命」
「げっ!?」
私の言葉が合図だといわんばかりに、部室の中にいる全員の声が何故かピッタリと揃った。
でもって…、
「“新作の劇”は中世ヨーロッパだろう? 中世ヨーロッパといえば革命だろーが」
私はそうサラリという。
「そういう意味か…」
やや、ほっとしたように速水ちゃんと部員達は私を見る。
というか、一体なんだと思ったのだ?
私がいったのは、今回の新作の方の演劇内容についてのことに他ならない。
「というか、その発想も若干疑問な気もするんですけど…」
で、相変わらず乾さんは冷静にツッコミを入れる。でもって、私は更にいう。
「まあ、それはそれとして、その革命に恋愛要素を絡めたら、革命とロマンのコラボレーションだ。どこか切ないラブストリーをやる予定なら悪くはないと思う。ただ、わりとあるといえばあるパターンだけどは思うけどね…」
「確かにな…」
と、さっきまでは脱力モードになりかかっていた速水ちゃんだが、気を取り直したらしく、ふっと真面目な顔になる。
「それに、ちょっと笑える要素を入れるという予定だから、一工夫必要ですね…」
また、乾さんも顔つきも変わった。
「“ちょっと笑える要素”がクセモノだな…」
「でも、神崎。やれないわけがないだろう? “この演劇部”なのだからな…」
速水ちゃんは断言した。
4.マトモに演劇部活動!!? その3に続く。