4.マトモに演劇部活動!!? その4
「あ〜っ!!? やっぱりここにいたっ!!!」
「あっ、松本ちゃん」
「あれっ、松本さん?」
「おっ、松本ちゃん」
何故か、私、郁江ちゃん、速水ちゃんの順番で、リズムカルにその声の主に反応する。
「どうしたの、松本ちゃん?」
で、私は尋ねた。
「というか、騒がしいから、君がいるんじゃないかと思って来んだよ」
あっさりとにこやかにいう松本ちゃんはいう。
「おいおい。それってあんまりじゃないか、松本ちゃん?」
「そう?」
が、彼女は相変わらずにこにこしていう。
「まあ、私がいるんじゃないかと思って来て、ここにいなかったら、ある意味、怪奇現象な気がする。もっとも勘違いというオチもあるかもしれないとは思うけれど」
で、我ながら私はしょ〜もないことをいった。
「あっ、あのね…」
そういうと、松本ちゃんはちょっと脱力した。
「…。いつも思うけど、君って独特だよね…」
「独特かど〜かはともかくとして、間違えたことはいってないと思うよ?」
「う〜ん、確かにそうなんだけどさ…」
松本ちゃんは、ちょっと複雑そうな顔をする。と、
「いいたいことは、よくわかるよ…」
速水ちゃんがちょっと脱力した口調でいった。
「同じくね…」
で、更に郁江ちゃんも同じようにいう。
しかし、このふたりは、いつも意見が食い違うのに、何故こう妙な時に限って意見が一致するのだ?
なんとも妙な二人である。
「しかしまあ、生徒会長が来るのも珍しいが、松本ちゃんもくるとは思わなかったな…」
と、ふと思いついたように速水ちゃんはいう。
「う〜ん。更にいうなら郁江ちゃんと松本ちゃんの組み合わせはレアだよなあ」
で、私も納得する。生徒会のメンバー同士ではあるのだが、意外と郁江ちゃんと松本ちゃんの組み合わせというのは、あまり見なかったりするのだ。
「そうかな?」
と郁江ちゃんはちょっと考えるように私を見る。
「うん。あんまりこういうシュチュエーションってないと思う」
「あっ、松本さんとよくいるのは、生徒会室が多いし、他のメンバーもいるしな…。そういわれると、そうかもしれないな…」
で、郁江ちゃんは郁江ちゃんで、なんだか納得したようにいった。
「なるほど…」
そんなわけで、私もなんとなく納得してしまった。
彼女がいうとおり、二人がよくいるのは生徒会室が多いし、他の生徒会のメンバーもいることが多いのだ。そのため、二人だけがこんな風にいるというのが珍しいと感じてしまうわけだ。
でもって…。
「ところで、そういえば生徒会長どうしたの?」
唐突に松本ちゃんが、郁江ちゃんの方に向き直った。
「???」
いきなり何をいっているんだ?というように郁江ちゃんは松本ちゃんを見る。
松本ちゃんはあっさりという。
「えっ、だって…。さっき、生徒会長、珍しく大声あげていたじゃない?」
そういえば、そうである。
がくっ。
郁江ちゃんは、はあと溜息を吐いた。
「神崎ちゃんのボケかましに脱力しただけだよ」
が、それでもあくまでクールに答えた。
「あっ、なるほど」
「って、松本ちゃん。どうして、そこで納得するわけ?」
で、あまりにもあっさり納得する松本ちゃんに、私はツッコミを入れた。
「だって、君って結構突拍子もなくボケかますもの」
松本ちゃんは、笑いながらサラリという。
しかし、そう笑っていわれると、ちょっと気分は複雑である。
「私は郁江ちゃんに“生徒会を何だと思っているんだ?”と聞かれたから、“生徒会は生徒会だと思っているよ”といっただけだよ」
「それをふつーボケかましているというんじゃないの?」
何気に脱力しながら松本ちゃんはいう。が、それはともかく、私はいう。
「で、郁江ちゃんは“おいこら、そのまんまじゃないかーっ!!”といったんだけどね」
「…。さっきの大声って、そういうわけだったんだ…」
妙に納得したような感心したような顔を松本ちゃんはする。
「そうだよ。わりと真面目なノリでしょーもないことをかますから、神崎ちゃんにはびびらされるやら、脱力するやらだよ。まったく…」
で、郁江ちゃんは少しだけ笑っていった。
「うーん、神崎はそーいう人だしね」
松本ちゃんが、それは、わかっているんだけどね…といわんげにいった。
その言葉に、まわりの演劇部の面々も納得しているようだった。
って、おいこら。
「でも、生徒会長、珍しいよね?」
ふと、また、何かに気付いたように松本ちゃんはいう。
「日頃、生徒会長って、大声出さない人だと思っていたのに…」
「そうか?」
意外そうに郁江ちゃんはいった。
「そういや、生徒会長ってそういうキャラだったな…」
で、そういえば、そうだったというような顔を速水ちゃんもする。
確かにである。郁江ちゃんは生徒会の活動に精力的ではあっても、クールな生徒会長として、この飛翔綾学園・高等部で知られているのだ。
「わりとクールなタイプだろう、生徒会長って?」
だから、速水ちゃんも当然そう認識していた。
「まあ、程よくね」
アッサリと郁江ちゃんはいう。
「そのわりに時々熱血になるよね、郁江ちゃんって?」
で、私は少々茶々をいれていってみる。ちょっとだけ、どんな反応をするかと思ったのである。
「たまにはね」
が、郁江ちゃんはあくまでクールであった。
「それはそうとして、松本ちゃんがここに来たってのも珍しいよね。まあ、郁江ちゃんほどではないけどね」
と、ふと松本ちゃんに私は聞いてみた。
やっぱり、この演劇部を偵察に来たのかな?と少々思いながら…。
「というか、他の演劇部の子達が“速水さんの演劇部がイベントやっている”っていってたから、何やっているのかなと思って、来てみたんだけど?」
そして、私の微かな思いはともかく、松本ちゃんは更に答えた。
「それで、なんだか騒がしいと思ったから、多分君がいると思ったんだよ」
「ふーん、そうですかい…」
「騒がしいというか、賑やかだなと思うと大概いるでしょう、君って?」
「どーいう意味だよ」
“騒がしい=神崎”という定義がどうやら、松本ちゃんの中にはあるらしい。
でも、それをいうなら、松本ちゃんはそれ以上な気がしないでもない。
彼女は根が明るいのか楽しいのが好きなのか、女の子達とカナリ賑やかに騒いでいる姿をよく見かけるのだ。
速水ちゃんはいう。
「つまり、松本ちゃんも生徒会長と似たような理由で来たわけか…」
「ところで、イベントって…。あの記者会見モドキになった脚本の制作発表か?」
私に思い当たるフシは、そんなところしかない。
「うん、それだよ。でも、既にイベントは終わっちゃったみたいだったから、生徒会室に戻ろうとしたところだったんだよ。で、生徒会長の声が聴こえたから何だろうって…」
松本ちゃんは何が楽しいのかはわからないけれど、なんだか楽しそうにいう。
「なんだか微妙にサスペンスドラマのノリがはいっているなあ…」
思わず私のいった言葉に、松本ちゃんは妙に驚いた。
「えっそう?」
で、速水ちゃんがアッサリという。
「生徒会書記は見た…ってヤツか? そのまんまなネームだけど…」
「というか、脚本の制作発表が“イベント”として他人に認識されているというのも、本当に何だかよくわからないぞ、速水ちゃんの演劇部って…。まあ、今更いうまでもないけどさ」
本当に今更いうまでのことではない。が、ついついいってしまう。
なんというか、妙な習性というか習慣がついたものである。
「演劇とはそういう要素があるだけの話だ」
が、私のツッコミはさておいて、当然だといわんげな速水ちゃんであった。
まあ、わかってはいるのだが…。
彼女はごくごく普通にいっているにすぎないのだ。
「は、速水ちゃん…」
で、松本ちゃんは脱力していた。が、ちょっと調子を戻すようにいう。
「とにかく、この演劇部っておもしろいことをやるし、それに、なんかおもしろいことが起きそうだし、見てみたいと思うじゃない? そんなわけで来てみたんだけどね」
「やっぱり、既に見世物状態ですね、この演劇部…」
今まで会話の成り行きをみていた乾さんが、非常に冷静にいった。
「もっとも、今更いうまでもありませんけど」
本当にその通りである…。
「でも、演劇は演劇以外も含めて見世物みたいなところがあるからな…」
で、またもや、速水ちゃんが納得できるような、できないようなことをいう。
「自分でいってどーする…」
郁江ちゃんが脱力して律儀にツッコミを入れた。そして、
「まあ、大騒ぎはいいとして、この学園を壊滅させることだけは避けてくれ」
と、どういったらいいのか不明なため息を軽く吐いた。
「うちの演劇部を何だと思っているんだ、生徒会長?」
速水ちゃんは、ちょっとムッとしたようだ。
「おとなしめにいうなら、爆走演劇部」
しれっとして郁江ちゃんは答える。
「最近はおとなしいと思うけどな…」
「ケンカ売っている?」
「生徒会も人のことはいえないと思っただけだよ?」
そして、サラリと速水ちゃんもいう。
「決して、おとなしい生徒会ではないだろう?」
「おとなしい生徒会でこの学園の生徒会が務まると思っている?」
ピクリと郁江ちゃんの眉が動いた。
「全然。まず、生徒会長が君だしな、そうは思わないよ」
「君の演劇部も同じようなものだろう?」
速水ちゃんと郁江ちゃんとの間にまた火花が散っていた…。
「って、そろそろ戻らないと…。あともう少しで会議の時間だ…」
と、思い直したように郁江ちゃんはいった。
「悪いね、ずっと演劇部の相手をするつもりもないんでね」
「そりゃそうだろう…」
「それに、なんだか神崎ちゃんが妙に楽しそうにこちらを見ているのが、ちょっと戦慄を感じるんだがね…」
で、郁江ちゃんはボソッと速水ちゃんにいう。
「…。確かに……」
そして、速水ちゃんは私の顔を見て、軽く脱力する。
「って、おいこら」
と私。というか、こいつらは私を何だと思っているのだ?
「しっつれいな…。このまんま、うまい具合に動かして、ふたりに演劇の脚本につかえそうなサンプルをやってもらいたいなあって思っただけだよ」
・・・・・・。
「容赦ないな、神崎ちゃん…」
「生徒会長、あたしもそー思う……」
日頃、何かとライバル同士のふたりだが、今回は妙に意気があっていた。
「一体、何をやるつもりだ、神崎ちゃん」
やれやれといった表情の郁江ちゃんに、私はアッサリという。
「何をいっている? 現在考えることといったら、さっきもいったような気はするけど、どうしたら演劇祭を成功させれるかってことだろうが?」
「もっともだな…。」
それを聞いて、速水ちゃんは笑った。
「……。演劇祭を成功させたいというのは生徒会も同じだよ。もちろん、演劇部とは別の立場だけどね」
で、郁江ちゃんはあくまでクールにいう。
「どこの演劇部もおとなしくないものが勢ぞろいだから、生徒会としては大変だ」
「大丈夫だ。生徒会も十分すぎるほどおとなしくないから」
速水ちゃんもあくまでサラリとしていう。私はいう。
「とりあえず、これからなかなかハードになりそうだね演劇部も生徒会も…」
「というか、神崎先輩。他人事のようにいってますけど、先輩も関係者だってことを忘れないでくださいね」
と、そこに乾さんがにっこりと笑って私にいう。
「なかなかハードな日常は約束されたも同然ですから」
なんでもないことのように、いっそのこと爽やかに乾さんは宣言した。
「あんまり約束されても嬉しくないぞ…。まあ、いいけど…」
私はそういいつつ、ふふんと笑った。
というより、冷静に考えると、そもそも笑うしかないような気もした……。
4.マトモに演劇部活動!!? その5に続く。