1.屋上 −SPRING− その2
携帯電話の着メロが鳴ったので、それに出てみると、はたしてその相手は大嶋ちゃんだった。
「どうしたの〜? 実はさっきまで君の事を考えてたんだよ」
<……。お前、一歩間違えるとそのセリフって口説き文句にならないか?>
しかし、なんだか脱力しているらしい大嶋ちゃんだが、彼女も負けずに脱力することをいう人である。
「もっと間違えるとストーカーっぽくなるかもしれないぞ」
でもって、ついでにそんなことを私はいう。
<明るく不穏なことをいわないように…>
そして、彼女は更に脱力する。
<まあ、それは置いておいて…、今どこにいる?>
「えっ!? 屋上だけど…?」
そのままな事をいう。
<屋上?>
「正しくは第3校舎の屋上」
<…。ああ、“変わり者の住処”か…>
「おいこら」
<まあ、君が変わり者だというのはわかっているが…>
「おいこら」
<でも、なんでまた…。そんな辺鄙な場所に…>
気を取り直して私はいう。
「ここって、結構景色のいい穴場なのさ。眼下には桜並木が見えて綺麗だぞ」
<意外に風流な奴だな…>
やや感心したように大嶋ちゃんはいう。
「それに毛虫も落ちてこない…」
<た、確かにな…>
「うん、とりあえず、ここまで毛虫が飛んでくることはまずないぞ」
<当たり前だ…>
でもって、彼女はまた脱力する。
「私は間違ったことはいっていない」
<確かにそうだが、確かに…>
「まあ、とりあえず、さっきまでつれづれなるままにぼ〜っと取りとめなく考え事していたよ…」
<君は平安貴族か……>
「いや、高校生だ」
<わかっているけどさ…>
しかし、いつも思うが、何故大嶋ちゃんと話しているとボケとツッコミ状態になるのだろう…?
「でも、平安貴族のことは考えてたぞ?」
<微妙に学術的ちっくになってきたな…>
「そうかあ? まあ、いいけど…。ちなみに考えていたのは小野小町のことだよ…」
<…。なんじゃそりゃ?>
「いや、唐突に古典の授業を思い出して、小野小町について考えてたらテンションが下がったんだ」
<何考えてたんだ、一体…>
「結局のところ、平成の時代に生きる人間は、ずっと1000年以上も昔のことなんて、文献だろ〜が、何だろ〜が、あったとしても、想像の域を越えることは所詮無理なのだって思ったんだよ」
<身も蓋もないなあ…>
冷静に大嶋ちゃんはいう。
「うん、そう思う。まあ、しかたないから、とりあえず一句詠んでみたぞ」
<どのへんが“仕方ない”のか“とりあえず”なのかよくわからんが、ある意味、君らしい気がするな…>
「なんだそりゃ? それはそれでわからんぞ」
<で、どんな句を詠んだんだ>
と、彼女は尋ねてくる。でもって、私は素直に告げる。
「桜咲く つれづれなるまま 屋上で ただとめどなく 脈絡もなく……」
<そのまんまやな〜、というか字余りだぞ>
「ああっ、しまったっ!?」
我ながら不覚であった。と、はっとしたように大嶋ちゃんはいう。
<って、話がまた脱線した…>
「いつものパターンな気もするぞ」
<あ、あのなあ>
「短くはない間、友達をしているとこういうことになるという例ということで♪」
<おいおいおい…>
またもや彼女は脱力する。
「“友情”とは脱力することである」
<もっともらしくいってどーする。まあ一理あるけどな>
って、納得するんかい。
<まあ、それは置いておいて…、君は速水ちゃんと仲いいだろう?>
と、何の前触れもなく彼女はいう。
「少なくとも仲は悪くないと思うぞ」
<うん、だから、一応いっておこうと思ったんだ>
「へっ!?」
<今、のんびりしているところを見ると、速水ちゃんの近くにいないよな?>
「…? いないねえ…」
<じゃあ、今日は身の安全ために会わないほうがいいかもしれないぞ>
「なんだそりゃ?」
<う〜ん、要するにだ…>
どどどかあああああんっ!!!
瞬間、途端にもの凄い音がした。
って、私は何もしていないんだが…。
「うわあ〜〜〜っ!!?」
大きな叫び声だけれども、比較的遠い場所からのようである。
「速水先輩が乱心だあああ〜〜〜っ!!?」
・・・・・・・。
何をやったんだ、一体・・・・・・。というか、今の声、乾さんだよなあ?
耳をすませば、なんだか物凄い音が聞こえてくる・・・・・・。
「どうやら、なんだか凄まじいことになっているらしいな・・・・・・」
<わかったか…?>
爆音(!?)が携帯ごしに大嶋ちゃんの方にも伝わったらしい。
ここの屋上からはあの速水 僚率いる演劇部の部室は見えない。
が、騒々しい物音とよくわからん大騒きな大声が響いてくる。
が、姿が見えないので、何が起こっているのかはわからない。
「まあ、恐らく、また乱闘でも起こしているのだろう」
ははっと笑った。というか笑うしかない。
<まあ、多分な……>
つどどどお〜〜〜〜〜んっ!!!
って、今度は何の音だ?
しかし、今度は演劇部から聞こえてきた音ではない。
<って、本当に激しいようだな演劇部…>
「いや、今度は演劇部の方じゃないみたい…」
<えっ!?>
さっきの演劇部から比べると比較的近い所のようだ。
「あらら〜、爆発しちゃったあっ!!?」
おいおい・・・・・・。
「副部長〜、実験道具が大破しました〜っ!!?」
「うわあっ!!? こりゃあ、大変なことになったね〜、あははは・・・」
「進藤先ぱ〜いっ!!? 笑い事じゃあありません〜〜〜っ!!」
「どうやら科学部の活動をやっているらしいぞ」
<科学部って…。一体何をやっているんだ?>
「さ、さあ…?」
科学部についてわかっていることなんて、クラスメイトの進ちゃんこと進藤 孝宏が科学部の副部長で、わりと変わっている実験をやっているらしいというぐらいでである。
「実験大失敗です〜〜〜っ!!」
「あはは、またやっちゃったねえ、はははは・・・・・・」
「副部長、爽やかに笑っている場合じゃ、ありませんっ!!!」
まあ、そうだろう・・・・・・。
というか、進ちゃん、一体何をやったんだ?
ここから、少し遠くの校舎の窓、第6校舎の4階あたりから、紫色の煙がもくもくと大発生していた。
「進藤先輩〜っ!!? どうします〜っ?」
恐らく部員だろう誰かの泣きそうな声が聞こえてくる。
「う〜ん、まあ、とりあえず後片付けをしようっ!!」
で、進ちゃんの実に爽やかな声が聞こえてきた・・・。
・・・・・・。まあ、そりゃそうである。
「なんか紫色の煙が出てる…」
<ええっ?>
「大嶋ちゃん、科学部も大変なんだな・・・・・・」
<ま、まあな…>
否定する気はない。ただ、ちょっと呆然としているだけである。
というか、一体進ちゃんは本当に何の実験をしていたんだ・・・・・・?
あの紫色の煙って一体・・・・・・。
謎は深まるばかりである・・・・・・。
「今度、科学部の知り合いに聞いてみることにするよ…」
<好きにしてくれ…。あたしはかかわりたくないけど…>
と大嶋ちゃんはいう。
「とりあえず、科学の進展に乾杯・・・・・・というところかな?」
<なんか、思いっきり違う気もするけど・・・・・・>
「じゃあ、どうしよう…?」
<どうもしないだろう、こりゃ…>
もっともなことを大嶋ちゃんはいった……。
1.屋上 −SPRING− その3に続く