T.BLUE SKY
−1
.ARIA −
「君が死んだら、その目を僕にくれないかい・・・・・・?」
随分妙なことをいう奴だなと、その時は思った。
「何故?」
彼はただ笑う。
「その目は僕が作った最高傑作だからさ」
「・・・・・・。そんなに、この目がほしいのなら、取ればいいでしょうが・・・。もっとも代わりの目は貰うけど?」
私の目は、正しくは“目”ではない。“目によく似たシロモノ”である。
見た目からして機能からして、そのまんま“目”にしか見えないのだが、それでも“目”ではない。
ちなみに両目とも2、0はある。
「・・・・・・。それじゃあ、意味がないんだよ」
姿形を見ているだけだと、同じくらいの年頃に見える彼は、困ったような顔をする。
「君が君の一生という時間を経たものじゃないと意味はないんだ」
「そのころには私の“目”は使い物にならなくなって、恐らく取り替えていて、この目は処理されていると思う」
「そんなヤワにはできてないよ。その目は“僕が作った目”だから」
彼は自信タップリに、それでいて少し切なそうな目をする。
ちなみに彼の目は本物である。私の目と違って人工的に作られたものではない。
「もっとも、君の体もそう簡単には欠陥がでないように作られているけどね」
少し嫌味ったらしく彼はいう。だから私はいう。
「自分の才能を自慢したいの?」
「・・・。そりゃあ、少しはそれもあるよ」
私は人間ではない。見かけは、少なくとも人間なのだが。
どうやら、私は彼(気分的にコイツ)に作られたらしい。自分のパーソナルデータ(一般用ではない)を見てみると、製作者の欄に彼の名前が記してある。
「“作られた人間”なのに、“できそこない”だったら、私はどうせ、スクラップ廃棄処理でしょう?」
私はあっさりいう。別に人工的に作られた人間だということは以前から知っていて、ごく自然に認識しているので、僻んでいるわけではない。
ただ、“普通の人間”とほぼ同じようなのものなのに、何かと不可解な違いが、この世の中にはある気がするだけだ。
「・・・・・・。まあ、僕も純粋には“人間”とはいえないのだけどね」
「そりゃあそうだろう。何十年もそれだけ同じ姿保っているんだから・・・、人間は老化するもの」
「“作られた人間”も老化するよ」
「“純粋培養の人間”だからいえるセリフだね」
「そりゃあ、ある時期までは“純粋培養な人間”だったがね」
何故かコイツは妙に悲しそうな顔をした。
「“純粋培養”な人間は貴重で大切にされるのに、そういや、どうしてやめたの?」
ふと思ったので聞いてみる。
ちなみに、“純粋培養の人間”というのは、簡単にいうと作られた人間でない人間、男と女が性交渉をすることによりできあがる人間、いわゆる自然の流れというものでできあがる人間のことである。
対して、私みたいな者は“作られた人間”もしくは“人造人間”という。
ある方法で、といっても、いろいろあるのだが、ともかく人為的に人工的に作られる人間なのだ。
もっとも、生れた時というか生まれながら(元々の状態)の“作られた人間”もいるし、もともとは普通の人間(純粋培養の人間)だったが、多かれ少なかれ“加工”して“作られた人間”になる者もいるから、同じ“作られた人間”といっても種類は嫌になるほど豊富である。
私はというと、元々も“作られた人間”だったし、また、時々いろいろな“加工”してきたので、間違いなく“作られた人間”なのだ。
「・・・・・・。“純粋培養の人間”は守りたいものを守れないからだよ」
その時、彼は一瞬だけ凍るような目をした。
「それを思い知った時、僕は“純粋培養の人間”をやめようとした。ただ、本当にすべて“純粋培養の人間”をやめると僕の願いも叶わなくなってしまうから、少しだけ“作られた人間”になることにしたんだ」
少年と青年の中間の姿をするコイツは時々、不可解な言葉を口にする・・・・・・。
いつも白衣の研究者スタイルに身を包んだコイツは、私にとって、一番近い存在で、その一方とんでもなく遠く隔たったところにいる気が時々する・・・・・・。
「私を作ったのも、その願いとやらを叶えるため?」
「昔はね」
「・・・・・・? 今は?」
「・・・。というより、アリア。その表現は不味いぞ。僕が君を作った事は機密事項だ。それに、君は僕の“パートナー”なんだからな・・・・・・」
といっても、既に公認のような気はしないでもない。でも、私は素直に頷いた。
アリア、これは私の名前。
“A・R・I・A”で、アリア。コイツが私の名前は付けた。
ちなみにコイツはシュウという名前。でも、本当はもっと長い名前・・・・・・。
「こき使われている同居人という気がする」
私はあっさり、やや否定する。
なんだか、知らんがコイツは私をこき使うのだ。
コイツは科学者であり、魔学者でもあり、とある国の“研究機関”に属している。
で、私も似たような存在だ。それで、コイツと一緒にその研究機関に属していて、日々いろんな研究をしてたりする。
といっても、私が主にやっているのは、コイツの助手みたいなものなのだけれど・・・。
コイツ…、シュウと私が研究しているのは“魔学”(魔法・魔術)でもあり“科学”でもある。
実いうと、本当はあまりにもいろんな事を研究しているので、何が何だかわからないところがあるから、そういう表現を使っているともいえるのだけど。
「随分これでも大事に扱っているんだけどな?」
コイツは苦笑した。
ちょっと困ったようなそれでいて少し楽しそうなコイツの顔が気にいってたりする。
だから、私は唇の端をすこし上げるのだ。
「そのセリフ随分聞き飽きたけど?」
「君のそのセリフもね」
生意気そうな笑い方をするコイツはいつものコイツだった・・・・・・。
「でも、それがいいんだ」
シュウはごくごく自然に少し笑った。
しかし、どうしてコイツは随分と切ない表情をするのだろう?
「・・・・・・。アリアの目はね、本当は“BLUE SKY”っていうんだ」
と、コイツは唐突にふと思いついたようにいった。
「シュウ?」
「どうした?」
「私の目は全然、SKY BLUEでもないのに?」
鏡を見ても自分の目の色はそんな色でないことは、ずっと前から知っている。
青い色が多少混じった濃い紺色の目だ。空の色にはちょっと見えない。
「いずれ、わかるよ」
シュウは少しだけまた哀しげに笑った。
「なんだ、それは・・・・・・」
私は、いつものようにコイツを見る。
よくある、研究施設の休憩室の風景・・・。なんでもない風景だった・・・。
それが変わったのは、約1週間後・・・・・・。
別にそんなことを望んだわけでもなかったのに、事態は勝手に変わっていったのだ。
そして、結局…。
私は自分の“目”である“BLUE SKY”の意味を、ほんの少しだけ知り、旅立つことを決意することになる。
ものいわぬ亡骸となったシュウの前で・・・・・・。
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