−2.DR.SYU <Part1> −
Monday Morning・・・・・・
半熟のプレーンオムレツにバターをのせたもの・・・・・・。
私が朝食で好きなメニューだったりする。で、どういうわけか、シュウがそれを作るのが上手なのだ。他の人間が作るのと違ってなんだか、とんでもなく美味しかったりする。
そんなわけで、毎朝これをシュウに作ってもらうのだ。
黄色い色彩の柔らかい物体、主成分が動物性蛋白質のこの食べ物が、何故か私は好きなのだ。
「アリアは、とにかくオムレツが好きだよな・・・・・・」
シュウは苦笑しながら、私がオムレツを食べているのを見てる。
「うん、この味といい感触がいい・・・・・・。他の人間じゃ出せないんだ」
それをいうと、シュウは嬉しそうな困ったような顔をする。
「そういってくれるなら、こちらも作りがいはあるな」
「シュウの作ってくれる御飯はどんなものも美味しいよ」
「そういってくれるのは君だけだよ・・・・・・」
シュウは苦笑して、ほとんどコーヒー牛乳と化した、ミルクと砂糖をかなりタップリ入れたコーヒーを飲む。
「というか、みんなには作らないみたいだけど?」
「・・・・・・。他の人間には作りたいっていう気にならないだけだよ」
「なんで?」
「他の人間が嫌いだから」
シュウは恐ろしいぐらいアッサリという。で、
「私の事は嫌い?」
試しにちょっと聞いてみる。
「・・・・・・。嫌いなら、こんなふうに何年も一緒に暮らしていないよ」
シュウは軽く笑う。確かにもっともではある。
「嫌われていないなら、いいけどね」
「・・・・・・。嫌いになるわけがないだろう?」
「私はシュウの“作品”だものね」
「・・・・・・。それ以前に、僕にとってはなくてはならないものなの、君はね」
困ったようにシュウはいう。
「・・・・・・? シュウも私にとって、なくてはならないものだと思うけど?」
「昔みたいに、いってくれるんだ?」
シュウはふと酷く驚いたような顔をした。
「・・・・・・?」
私は思わず彼を見た。私はそんな妙な事をいったのだろうか?
と彼はふふっと笑う。
「・・・・・・。いや、そんな事いってくれるのはアリアぐらいだと思っただけだよ」
「みんな、シュウの事は好いていると思うよ」
何せ、コイツは美形であり、天才だし、頭脳明晰であり、優れた“科学者”であり、“魔学者”である“研究者”なのだ・・・・・・。そして、僅かな加工があるけれど、ほぼ完璧な“純粋培養の人間”なのだ。
つまり、頭脳にしろ体にしろ、とんでもなく希少価値の高い人間なのだ。表面上の愛想も見かけもいいし、なんか色々とモテている・・・・・・。
ふと、シュウはふと少しだけ自嘲した顔をする。
「・・・。あいつらが好きなのは、僕の頭脳だけさ。まあ、肉体もいろんな意味で、興味の対象かもしれないけれどね。僕はそう思う・・・・・・」
「ふうん?」
実いうと、コイツがそういうのも、わからないわけではない。何故なら、私もコイツとはまた違った意味で、まわりの人間達の興味の対象になるものなのだ。
私は、この天才シュウに作られた、精度の高い“作られた人間”なのだから・・・・・・。
「そのくせ、そんな事思っていても、みんなには見せないんだね」
私はふと、そんなことをいってみる。
「・・・・・・。“処世術”さ」
人の事いえないだろう? そういいたげな顔をして、シュウはいった。で、
「とりあえず、はやく食べたら? オムレツが冷めないうちに」
「うん」
少し、冷めてしまったオムレツを口の中に入れる。冷めてはいても、シュウの作ったオムレツは美味しいとふと思う。
平和ないつもの朝食である。いつも、ふたりで食べるというパターンなのだ。随分と昔から、そうだった。でも、いつから、こうだったのだろう?
実はわからなかったりする。
ただ、気がついた時には、私は“シュウ”の近くに、こうしていたのだった。
それこそ、『自然に』・・・・・・。
気が付いた時には、私は、シュウに作られた人間で、魔術師であり科学者であり、シュウの助手で、そして“パートナー”だった・・・・・・。
私とシュウは、とある国の研究施設の“住人”になっていて、研究所兼住居のこの白い建物に住んで、日々研究三昧。
ずっと、昔から、こういうものが普通だったのだ・・・・・・。
それがごくごく当たり前で、それが変わらず時は流れていく・・・。
シュウがいて、私がいて、魔学や科学の研究に日々を費やす。これが、私のスタイルだった。シュウもそうだと思う・・・・・・。
ふたりで、いろんな研究してきた。エネルギーの流れを変化させる機械を作成したり、古代と呼ばれる時代の呪文を復活させたり・・・・・・。
そのたびに、私とシュウは、まわりの人間達の注目を良くも悪くも浴びた。
“純粋培養の人間の研究者と作られた人間の研究者”
別にそれ自体は珍しくも何ともないが、数多くの優れた研究成果のオカゲで、私達は否応なしに名を知られることになって、久しかった。
考えたら、私とシュウはどれだけ研究をくりかえし、どれだけ色々なものを仕上げたのだろう?とんでもなくやったような気がする。
それはシュウが“天才”だから出来た所業なのかもしれないけれど・・・・・・。
Memory・・・・・・
そういえば、確かにシュウはとんでもな“天才”だ・・・・・・。
研究の準備をしながら、ふと私は思った。
シュウ・・・・・・。
この国というよりは、この世界でコイツのことを知らない人間はいない。人は彼を“天才”と呼んでいる。
数々の研究を極め、“科学”と“魔学”の発展に貢献した、天才的な研究者。“幻”となってしまった“天学”を蘇らせることのできる唯一の人間ともいわれている。
が、とても、そんな凄まじい天才という風には見えない。
姿は少年と青年の間のような奴なのだ。つまり青少年というところだろうか。
まあ、私にとっては、シュウは凄まじい天才というよりは、皮肉屋で人間嫌いだけれど、私には親切な兄(!?)であり、養育者(!?)であり“パートナー”なのだ・・・・・・。
ちなみに誤解がないようにいっておくが、“パートナー“といっても、“恋人同士”というわけではない。正しくいうなら“協力者”といった方が正解かもしれない・・・・・・。
とにかく私は、この世界に存在した時には“シュウのパートナー”だったのだ。
シュウに望まれて、私はこの世に存在する。
私はシュウの望を叶えるために、作られたのだ・・・・・・。
だから、ここに私は存在するのだ・・・・・・。
私は、“シュウが初めて望んだ人間”らしい・・・・・・。
人伝えにも確かに聞き、実際、シュウ本人からも聞いている。
ただ、“私を望んだ理由”については、答えてくれてないのだけど・・・・・・。
「・・・・・・。ちゃんと、いつかは話すよ・・・・・・」
シュウは、決まって困ったような切ないような、何ともいえない顔をする。そんな状態がずっと続いた。
というわけで、未だに私は自分が誕生した経緯について知らなかったりする。
別に知らないからといって困るわけではないのだけど。
ただ、シュウが“私”を望んだから、“私”がここに存在する。それだけは“確かなこと”なのだ。
でも、どうして、時々なんだか少し哀しい気持ちになるのだろう・・・・・・?
だから、私は時々、不安になるのだ・・・・・・。
私は、本当にシュウに望まれて生れたのだろうか・・・・・・と。
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